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八重山暮らし
更新日:2018年4月17日 / 新聞掲載日:2018年4月13日(第3235号)

八重山暮らし(37)

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サコナ(ボタンボウフウ)を摘む。細かく刻み刺身に添える。さわやかな苦みが淡泊な島の魚とよく合う。
(撮影=大森一也)
サコナのように

「その日に来てくれたら、一緒に見られるから」

友人の少しばかりかすれた声は、常になく弾んでいた。
「本家に古くから受け継がれてきた家宝の勾玉なのよ。一年に一度、その勾玉を箱から出して虫干しをするの。ねぇ、そういうの好きでしょ?」

日本最南端の島に暮らす友は、嫁ぎ先伝来の行事について切々と語る。わざわざ東京から研究者が訪れるほど価値のあるものだという。
「でも、勾玉をさわれるのはね…」

友人は、そっと言い足した。
「島の血が流れている人だけなの」

はつらつとした若い友人が、最後は頼りない口調となり、電話を静かに切った。

自身の子どもたちが目を輝かせて手にする家宝。だが友人は、それを家族と一緒に触れることができない。新しい血が土地に馴染むということは、少なくとも親から子へ、ひとつの世代分の時が必要なのかもしれない…。移住者として生きる、ごまかしようのない島との距離感を思い知らされた。

久しぶりに訪ねた友人宅には、サコナが生い茂っていた。「長命草」という沖縄の別名を彼女に習う。
「島の植物の中では、とっても地味よね。でも、私はサコナが好き。もっと増やそうと思っているんだ」

在来の薬草ばかりはびこらせて、と家人は呆れているらしい。彼女のねじけることのない大好きが、南国の陽射しに透けてきらめいていた。
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