日本人とスポーツ 日本文明研究所シンポジウム載録   為末大×田中ウルヴェ京×二宮清純×猪瀬直樹|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月20日 / 新聞掲載日:2018年4月20日(第3236号)

日本人とスポーツ 日本文明研究所シンポジウム載録  
為末大×田中ウルヴェ京×二宮清純×猪瀬直樹

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平昌五輪を目前に控えた二月六日、日本文明研究所の第十一回シンポジウム「日本人とスポーツ」が行われた。登壇者は、世界陸上男子四〇〇Mハードル・銅メダリストの為末大氏、ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリストの田中ウルヴェ京氏、スポーツジャーナリストの二宮清純氏、モデレーターを作家で当研究所所長の猪瀬直樹氏が務めた。長らく渦中にある相撲界について、最新のスポーツ科学や、アスリートのメンタル、平昌五輪の行方、東京五輪へ向けて考えるべきことなど、興味の尽きない話となった。そのシンポジウムを載録させていただく。 (編集部)
第1回
■神事、スポーツ、興行 相撲界の現状

猪瀬 直樹氏
猪瀬 
 年末から、貴乃花を中心に、相撲界がワイドショーを騒がせています。しかし暴行事件で横綱・日馬富士が辞め、理事候補選挙があっても、何も変わらなかったのではないか。

貴乃花親方のHPの二月一日付の日記には、「私の現役当時と比較して、現在は力士の数が大きく減少しています。この先、相撲は残っても、相撲協会は残れるとは限りません。その危機感を、私は強く持っています」と書かれています。
二宮 
 相撲人口が減っていることは間違いありません。平成元年から十年ぐらいまでは新弟子が年間一三〇~一四〇人ぐらいいて、若貴ブームで二〇〇人を超える年もありました。が、現在は七〇人前後です。

二〇一〇年に貴乃花が理事に立候補したとき、うったえたことがあります。二〇〇八年に改訂された中学校学習指導要領で「武道(柔道、剣道、相撲)」が必修科目となりました。が、柔道や剣道に比べて、相撲は指導者が少ない。さらに言えば土俵が少ないと。私の子どもの頃は、神社の境内や学校、あちこちに土俵がありました。今はそうした場所が非常に少なくなっていますよね。そのことに親方は危機感を感じて、相撲協会が普及のためのバックアップをしなければ、という提言をしたんです。
猪瀬 
 確かに僕が子どもの頃、男の子はみな相撲を取って遊んでいました。相撲をしたことがない現代の子どもたちは、テレビで相撲の決まり手を見ても分からないでしょうね。
二宮 
 まず普及があって、育成があって、強化だろうと。その土台が細ってしまったら、強い力士は出ません。貴乃花親方の問題提起は間違っていなかったと思います。
猪瀬 
 理事候補選挙は、貴乃花が初出馬した二〇一〇年と今回では、投票の仕方が違いますね。二〇一〇年は記号式でしたが、今回は記名式だから、筆跡で誰が誰に入れたか分かってしまう。
二宮 
 二〇一〇年以前は選挙とは名ばかりで、一門の票割が事前にでき上がっていたんです。ちょうどその頃、朝青龍の一連の不祥事や、新弟子が暴行を受けて亡くなった時太山事件もあって、組織改革が急務でした。それで当時の文部科学副大臣が、選挙を一門の忠義を示す儀式にしてはいけないと。ところが、せっかくの投票改革が、元に戻ってしまった。今回はこうした背景がなくても、貴乃花親方は選挙に負けたとは思いますが。
猪瀬 
 八百長の問題も根深くあります。相撲は興行でもあるから全てをきれいにするのは、なかなか難しいと思うけれど……。
二宮 
 日本相撲協会は、二〇一四年に公益財団法人になりました。それによって、一般の企業でいうところの法人税が、かなり免除されている、優遇された組織です。公益財団法人である以上は、公益化を担保することが内閣府から厳命されています。その責任意識を高めねばなりません。

大相撲は伝統文化ですから、守るべきものと変えるべきものの仕分の必要があると思います。先ほどの貴乃花親方の主張にも重なりますが、最も大事なことは、協会の定款第三条「目的」に書かれていると思うんですよ。「この法人は、太古より五穀豊穣を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために、本場所及び巡業の開催、これを担う人材の育成、相撲道の指導・普及、相撲記録の保存及び活用、国際親善を行うと共に、これらに必要な施設を維持、管理運営し、もって相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与することを目的とする」と。もっとも重要なのは、「相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与する」というところです。この意識を高めなければいけないというのが、貴乃花親方の思いでしょう。
猪瀬 
 理事選が終わって、新体制となる中で、何の改革をしていくのか、明示する必要がある。相撲は伝統的な神事でありながら、スポーツでもあり、興行でもあるところが複雑です。そして、年間九〇日も頭からぶつかりあっていたら、力士たちの体が持たないという問題もある。
二宮 
 年六場所、各十五日間で九〇日ですよね。若乃花や小錦などは、五場所でいいという意見です。もう一つ、巡業を減らすという案もありますが、難しいのは、まさに国民への普及が巡業の意義であるということ。その際にまず考え直すべきは、公傷制度ではないかと思います。
猪瀬 
 以前は公傷制度があって、場所中に怪我をして休場しても、番付は変わらなかったんですよね。
二宮 
 ところが北の湖理事長のときに、公傷制度を取り止めました。ただ、その理由も分からないではない。たびたび怪我をしては怪しい診断書を持ってきて、休場するという力士もいなくはなかったんですよ。でも公傷制度がないと、やむをえず怪我を負った力士もダダっと階級が落ちてしまいます。
猪瀬 
 栃ノ心も靭帯を損傷して、関取から幕下まで落ちていますからね。
二宮 
 公傷制度というのは、保証制度です。例えば今回も、暴行を受けた貴ノ岩が休場し、前頭から十両まで下がりました。普通に考えれば傷害事件なので、酌量の余地があってもいいと思います。
猪瀬 
 僕が子どものときは年四場所で、栃若時代に六場所になったのかな。六場所はすごいと思いましたよ。ただ古い映像を見ると、大鵬や柏戸は土俵に手をついていない。つまり頭からぶつかっていないんです。それがいつの間にか頭からぶつかるようになったから、これは怪我をして当たり前ですよ。
二宮 
 幕内の平均体重も増えている中で、リスクがあるのは事実ですね。

スポーツである一方で、神事であるし、興行でもある。この危うい三層構造の中でバランスを取りながら、生き抜いているのが相撲なんです。
猪瀬 
 組織経営の面からみると、外部の人間が入らなければ、相撲協会内のガバナンスだけでは、無理があると思いますね。
二宮 
 そのために理事候補選挙も、最終的には評議委員会が選任するかたちになっています。評議委員は外部四人、内部三人の構成になっています。評議委員会が、理事会の追認機関になってはいけないということですよね。その課題は、今回散見されたと思います。

そして本格的に角界の闇の問題に手を付けようというのであれば、「年寄名跡」の問題でしょうね。
猪瀬 
 年寄株ですね。
二宮 
 定款では、年寄名跡は売り買いしてはいけないことになっています。でもかつては三億ぐらいで売り買いされていた時期もありました。今はそれほどではないと思いますが、これは既得権益化しています。この問題に手を付けるのは大変です。
猪瀬 
 大相撲の裾野を広げるための、前向きな話は出ているんですか。
二宮 
 現時点では出ていないように思います。

少子化で、しかもスポーツが多様化している中、リンチもどきのことが起きる業界に、親が子どもを入れるかといえば、疑問ですね。
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