伊藤 誠・塚本恭章対談  資本主義はのりこえられるか  『入門 資本主義経済』(平凡社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月20日 / 新聞掲載日:2018年4月20日(第3236号)

伊藤 誠・塚本恭章対談
資本主義はのりこえられるか
『入門 資本主義経済』(平凡社)刊行を機に

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入門 資本主義経済(伊藤 誠)平凡社
入門 資本主義経済
伊藤 誠
平凡社
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『資本主義経済の理論』や『逆流する資本主義』といった著作で知られる経済学者の伊藤誠氏が、『入門 資本主義経済』(平凡社)を上梓した。
資本主義の基本的なしくみから、その発展段階と現代資本主義の歴史的位相、日本資本主義の成長と衰退、そして二一世紀型社会主義の可能性までを詳細に語った一冊である。
初学者向けに「平易」に書かれているのも本書の特徴のひとつである。刊行を機に、塚本恭章氏(愛知大学専任教員・経済学博士)と対談をしてもらった。
第1回
ルールの変更

塚本 恭章氏
塚本 
 資本主義の問題について今、議論される機会が増えています。たとえばNHK―BS1で、昨年と今年の正月、二年続けて「欲望の資本主義」というドキュメンタリーが放送されました。それぞれ「ルールが変わる時」「闇の力が目覚める時」と副題が付けられていました。前者の骨子は、富裕層に有利になるように資本主義のルールが変更された、そのルールを改定できるのかどうか、それが喫緊の課題であるというものでした。今年は、ごくシンプルな問題にスポットが当てられています。そもそもお金とは何か、人間は何のために働くのか、あるいはAIをはじめとした技術革新(イノベーション)が我々の暮らしにどう関わっているか。そうした問いを踏まえながら、世界経済の分断や資本主義経済の終焉論もテーマとして語られていました。特に興味深かったのは、マルクスやケインズ、シュンペーターといった、資本主義の問題を中心に考えてきた偉人たちの言葉や思想に言及する形で番組が作られていたことです。このようなドキュメンタリー番組を見ていても、資本主義がいったいどういう仕組みをもち、これからどのような方向性を辿ってゆくのか、そうした<大きな問題>に回帰する時代になっているのではないかと思います。

振り返ると、二〇世紀は「資本主義対社会主義」の時代だった。その構造が冷戦終結で終わったと言われている。いわゆる「歴史の終わり」という総括です。しかしそうした総括とは違って、新自由主義の是非をめぐるイデオロギー対立が、二一世紀になってより強くなっている傾向があるんじゃないか。そうした状況を前にして、資本主義の原理にとどまらず、その歴史的な発展傾向や変容に関する正確な知識を学ぶことが必須になると考えられます。伊藤さんの『入門 資本主義経済』は、そのための最良の一書であると思います。つまり、資本主義をきわめて多面的に捉えており、幅広い問題群を扱っている。また読者対象は学部学生、あるいは高校生でも読めることを想定して書かれている。ですから幅広い世代が、資本主義の問題を考え直すための入門書になっている。まずは、執筆された経緯をお聞かせいただけますか。
伊藤 
 今ご紹介いただいたように、高校時代に世界史を学んだぐらいのレベルでも十分読める、初学者用の本を書こうという意識は、執筆当初から持っていました。私自身は、宇野弘蔵の編著『経済学』(角川全書)で、学問の基礎を勉強しました。とてもいい本で、それをアップデートしてみたいという思いもありました。ただ、いざ書きはじめると、テーマが面白いので、楽しみながら書きました。資本主義とはどういうものであり、何であったのか。そして今後どのようになってゆくのか。読者の皆さんに一緒に考えてもらえれば嬉しい。そんな気持ちで書いた本です。

重要なポイントは、いくつかあります。資本主義は今、新自由主義のもとで様々な側面から規制を緩和し、市場原理主義の様相を強めている。歴史的に見ると、それは一九世紀末からの発展傾向を反転させた姿ではないか。一九世紀末に資本主義は帝国主義的な国家政策を重視するようになり、これに先立つ自由主義段階と言われる時期から変化した。その後、第一次大戦からの「危機の三〇年」があり、第二次大戦後の高度成長期にかけて、資本主義を制御するのが、国家の大きな役割のひとつとなった。これに伴い、働く人々の立場にも変化が生じる。たとえばケインズ主義的な雇用政策や福祉政策が採られることにより、社会民主主義的なコントロールが強められていた。

しかし一九七〇年代末から、日本では第二次臨調行革以降、この流れがはっきりと変わる。冒頭で塚本さんは「ルールが変わった」と言われましたが、当初私も、こんなことがあっていいのかと驚きました。我々の期待していた歴史の方向性と社会のルールが大きく変わってしまった。その結果、一部の富裕者が自由に資産を殖やすことが可能になった。ピケティが問題にした格差の再拡大が、顕著になっていくきっかけがここにあった。こういうことが、なぜ一般に受け入れられたのか。これは資本主義の原理にも関わる問題です。つまり資本主義は、それ以前の社会に比べると、人間の自由や、市場取引における自己責任を基本理念にしている。だから、ある意味で現在起こっている事態は、百年かけて国家がコントロールしようとしてきた体制に対する反転の結果生じていると言えます。そのことを一九九〇年に、「逆流する資本主義」という著書で提起しました。自由な取引によって経済生活全般を処理し、政治その他に依存しないというのが、資本主義が本来持つ方向性です。そうした資本主義の基本イデオロギーに通底する状況が今、現代的な様相で提示されているのではないかということです。したがって現代的な問題を、新自由主義をめぐって考えるためには、まずは資本主義の根本に目を向けなければならないと、ずっと思っていました。今回も、そういう二重の問題について考えた本になります。繰り返しになりますが、資本主義とはそもそも何であったのか、どこへゆこうとしているのか。そして近年特に顕著となっている格差の拡大、生活の不安定性、環境破壊、社会と人間とが荒廃し、壊されていく状況に対して、資本主義が持つ根本問題と深く関わることとして考えていきたかったわけです。
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この記事の中でご紹介した本
入門 資本主義経済/平凡社
入門 資本主義経済
著 者:伊藤 誠
出版社:平凡社
以下のオンライン書店でご購入できます
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