連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く53|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2018年4月24日 / 新聞掲載日:2018年4月20日(第3236号)

連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く53

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テレビ映画の演出をするドゥーシェ

JD 
 ヴィスコンティの映画は、ヨーロッパの貴族の映画であると同時に、イタリア映画でもあります。ヴィスコンティの映画とは、格調高き映画です。彼の映画に漂う気品こそが、驚くべきことなのです。ヴィスコンティの世界とは唯一無二のものです。社会階級に根ざした、より正確に言えば、社会階級などは問題にすらならない、純粋な文化的世界に属する大貴族の世界です。
HK 
 ヴィスコンティは、そのような貴族社会がなくなった世界の中で、没落や頽廃を描いたとは、よく言われていますね。
JD 
 確かにその通りです。
HK 
 頽廃的世界は非常にわかりやすい主題ですが、それ以上にヴィスコンティの映画で好きなのは「背中」です。どの作品を見ても、必ず印象に残る後ろ姿が映り込んでいます。非常に興味深いことだと思います。人間を後ろから撮ることができた作家は、あまりいなかったはずです。
JD 
 理由はそれほど複雑ではありません。ヴィスコンティは、ただ単に背中を見ることが好きな作家なのです。これは、根本的なところでは、大貴族の文化から来ています。公爵ぐらいの立場になると、他人との直接的な関係はあまりありません。常に一定の距離を保ちます。人の後ろ姿を眺めながら、距離を保ちます。
HK 
 ヴィスコンティのフィルモグラフィーを締めくくる画面、『イノセント』の最後のショットも女性の背中でした。印象的だったのは、その女性の黒いドレスです。喪服姿の女性の後ろ姿ということです。淡い白さが印象深い作品だったのでよく覚えています。他にも『ヴェニスに死す』でも背中を追っかけ回していましたし、『山猫』でも背中がよく出てきました。
JD 
 背中を眺めるというのは、人々を別の角度から見つめることです。そこには、通常とは別の世界があります。必然的に、世界に対する別の見方が提示されます。だからこそ、ヴィスコンティは非常に興味深い作家なのです。疑いようなくイタリアの文化が、彼の映画の隅々まで行き渡っています。加えて、ヨーロッパの貴族の文化も非常に深く根を張っている。イタリアの生活や古典文化を見せながらも、その文化を、私たちの慣れ親しんだ世界とは別の世界のようにして見つめさせる。このような作家は他にはいません。
HK 
 ヴィスコンティは本当に自由に映画を作っていたと思います。彼はあまり映画的な決まりは気にしていなかったのではないでしょうか。『夏の嵐』の前あたりまでは、チネチッタもしくはネオレアリズモの映画とともにあったように見えます。しかし、晩年の映画を考えると、その作品が映画から作られたというよりは西洋絵画やらオペラのような文化から生まれ出ているように感じます。
JD 
 彼は映画の決まりの中にあったはずです。しかし、ヴィスコンティはヨーロッパ文化、そしてイタリア文化から作品を作り出しています。なので、疑いようなくオペラや絵画の影響はありました。
HK 
 少し説明が足りませんでした。確かに、映画的な側面はあります。でも彼の画面を考えると、すでにイタリア映画の枠組みで語れる構図ではなくなってしまっています。より絵画的に見えます。しかし、それも10年代のフランチェスコ・ベルトリーニや20年代のアウグスト・ジュニーナの映画のように、直接的な構図の引用があるのではなく、ロマン主義や新古典主義などの精神において、ヴィスコンティの手で新しく作られているようです。
JD 
 確かに言われた通り、ヴィスコンティの画面の構図には絵画的側面があります。とりわけ晩年の作品において、そのような特徴が見られます。その中でも『家族の肖像』が良い例ではないでしょうか。非常にわかりやすいかたちで、ヴィスコンティの絵画への興味が現れています。絵画は世界を表象します。そこに表現されている世界とは嘘の世界ではありませんが、現実の世界でもありません。表象された世界です。そのような表象による世界とは、世界のありのままの姿とはまた別のものです。それゆえに、ヴィスコンティの登場人物たちは、その世界の中でいかにして生きるかを追い求めることになります。つまり、「美」の世界が問題となるのです。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
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