3つのゼロの世界―貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済 書評|ムハマド・ユヌス(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年4月21日 / 新聞掲載日:2018年4月20日(第3236号)

世界を描くのは私達自身 
新しい経済を創るための提案の書

3つのゼロの世界―貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済
著 者:ムハマド・ユヌス
出版社:早川書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者のムハンマド・ユヌスは二〇〇六年のノーベル平和賞受賞者だが、今どうしてムハンマド・ユヌスなのだろう。彼が今私達に伝えたいことは何だろうか。

本書は、現在の経済システムに代わる新しい経済を創るための提案を行う書だ。最初にユヌスは世界中で富の集中が加速し、格差や不平等が拡大している資本主義の欠陥を指摘し、現在の経済の仕組みではこの不平等が解決されることはないと主張する。ここまでは他の経済学者も同じかもしれない。ユヌスが彼らと異なるのは、明日の世界を創るため、私たち自身が行動を起こすための提案を行っているところだ。

ユヌスによれば、現在の資本主義システムというのは、人間が利己心のみによって動くということと、人間は仕事を探す者と見なしているという二つの誤った想定に基づいていることが問題であるという。そして、この二つを、人間は利己心と無私の心を両方もっていて、経済活動ではこの両方の動機が役割を果たすということ、また、人間は生まれながらの起業家であり、無限の創造性を自らに秘め、求職者になることもできれば、仕事を創る者にもなれるという想定に置き換えることの重要性を説いている。

読者は、この本は、長年積み重ねてきた実践と経験に裏打ちされた人間の可能性というものに対するユヌスの信頼が溢れていることに気がつくだろう。だれもが起業のための才能を有している(問題があるとすれば、ニーズに見合った支援の仕組みが整っていないことだ)。私たちが求職者ではなく、仕事の創出者となることで、皆が社会に自分の居場所を見つけることができ、自立し、持続可能な生き方が可能となる。政府の役割は、私たちを養うことではなく、そのような生き方を可能とするような仕組みを整えることだ(そのためのグッドガバナンスの必要性、金融制度や法律のあり方についても説明がなされる)。仕事が運命を決めるのではない。世界を描くのは私達自身である。そんなメッセージを、ユヌスは若者だけではなく、退職日を目前に控えた人を含む全ての人に向けて発信する。

ユヌスが目標として掲げる貧困ゼロ、失業ゼロ、二酸化炭素排出ゼロの世界は夢物語に留まらない。ユヌスは、これを実現するための具体的な方策として、「人類の問題を解決することに力を注ぐ無配当の会社」である「ソーシャル・ビジネス」の導入を提案する。具体的に、バングラデシュ、インド、ウガンダといった途上国における起業、米国等の先進国の貧困者による起業の例の紹介、日本も含む世界中のソーシャル・ビジネスが紹介されている。これらを通じて、ユヌスの提案する新しい経済システムとは、だれでも参加することが可能であり、持続可能であるということも分かる。

ひょっとすると、ユヌスの提案の中で最も難しいのは、私達自身が人間本性の「思い込み」から自分を解放することかもしれない。自分の人生を会ったこともない採用担当者にいとも簡単に預けてしまう。自分の運命を自分に取り戻す。仕事を探してもいいし、仕事を創ってもいい。両方選べる。ユヌスは、人間が利己的な動機に基づいて活動すること自体を否定しない。白黒ではなく、単純な善悪だけではない世界は、今の世の中に必要なようにも思える。難しいかもしれないが、あれこれと頭で考えず、ユヌスが言うように「とにかくやってみる」ことが大事なのかもしれない。(山田文訳)
この記事の中でご紹介した本
3つのゼロの世界―貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済/早川書房
3つのゼロの世界―貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済
著 者:ムハマド・ユヌス
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
大工原 彩 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >