斎藤真理子、古川綾子、すんみ=鼎談 〈新しい文学が生まれる場所〉 韓国『新世代』の作家たち〈韓国文学のオクリモノ〉シリーズ(晶文社)全六冊完結|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年4月27日 / 新聞掲載日:2018年5月4日(第3237号)

斎藤真理子、古川綾子、すんみ=鼎談
〈新しい文学が生まれる場所〉
韓国『新世代』の作家たち〈韓国文学のオクリモノ〉シリーズ(晶文社)全六冊完結

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いま、韓国から新しい文学の風が吹き込んでいる。
二〇一七年十月から刊行開始されたシリーズ「韓国文学のオクリモノ」(晶文社)は、二〇〇〇年以降にデビューした韓国「新世代」と呼ばれる作家を中心に、ハン・ガン『ギリシャ語の時間』、パク・ミンギュ『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』、キム・エラン『走れ、オヤジ殿』、ファン・ジョンウン『誰でもない』、キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』の五冊を刊行し、まもなく六冊目となるチョン・ミョングァン『鯨』が刊行される。

シリーズ全六冊の完結を機に、本シリーズで翻訳を担当した訳者でもあり韓国文学の最前線を知る紹介者でもある三人の魅力的な女性たち、斎藤真理子さん、古川綾子さん、すんみさんに、作家の個性や作品の読みどころ、韓国文学の魅力とその力、シリーズ刊行の意義などを語っていただいた。
本特集では、四月に来日した作家ファン・ジョンウンさんの『誰でもない』読書会のレポートも掲載。
鼎談と併せてお楽しみください! 
(編集部)
第1回
◇ハン・ガン パク・ミンギュ ファン・ジョンウン 

斎藤 真理子氏
斎藤 
 ハン・ガンさんの『ギリシャ語の時間』がシリーズの第一作目で出たことは良いスタートでした。本作の前にアジア人で初めて英・ブッカー国際賞を受賞した『菜食主義者』(きむふな訳、クオン)、一九八〇年の光州事件に想を得た『少年が来る』(井手俊作訳、クオン)の二作が刊行されていますが、本書は前の二作とはまた違う顔を持った希望が感じられるような作品です。著者が充分に知られているということと、その違う面を紹介できるということで、このシリーズの皮切りとして非常にふさわしかったでしょう。このシリーズは、一九七〇年以降に生まれた若手の作家、民主化以降に大人になった作家の作品を集めるということで構想され、女性四人と男性二人というバランスも現実を反映していると言っていいと思います。ハン・ガンさんとパク・ミンギュさんは日本での紹介数も多くて、シリーズの最初にこの二人の作品を持ってくるのはふさわしかったと思います。
ギリシャ語の時間(ハン・ガン)晶文社
ギリシャ語の時間
ハン・ガン
晶文社
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『ギリシャ語の時間』は、思った以上に反響をいただいて、書評もたくさん書いていただきました。実はこの作品は、読むのが困難な本ではないかと思っていたんです。話者が二人いて、誰がどの時点のことを喋っているのか、現在の事なのか過去の回想なのか、読む為にはかなり脳を使わなければなりません。でも読者のみなさんがよく咀嚼してくださっていて、私自身驚いた。やはり、不安や傷ついた体験を抱えた人たちが共通に持つ、どうしていいかわからない悲しみみたいなものに寄り添っていく物語だったので、広く受け容れられたのではないかと思います。
かたや、パク・ミンギュさんはハン・ガンさんと対極にあるようでいて、通底するものがあるように感じています。『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』については、パク・ミンギュさんがはっきりと「IMF危機で傷ついたおじさんたちのために書いた」と仰っており(笑)、ハン・ガンさんはそういうことは仰らないけれど、二人の作品の底には何かつながるものがあると思うんです。シリーズの中でもっともポップなのは間違いなく『三美スーパースターズ』だと思いますが、私は野球のことなど何にも知らないので、編集部の方に助けていただきながら訳しまして、でも野球を知らない私でも充分楽しめましたし、野球を知っている人が読めばなおさら面白いでしょう。野球というアイテムを扱っていますが、非常に広い世界を描いている、楽しく読んで元気づけられる魅力が爆発している作品ですね。私は韓国で野球チームが発足した一九八二年に初めて韓国へ行ったのですが、そのときにパク・ミンギュさんは中学生だったんだなと思うと微笑ましいですね、私もその頃は山猿のような女子大生でしたが(笑)。そう思うと、同時代を生きてきたんだなあと実感でき、八〇年からこれまでの変化がいかに大きかったかを感じる作品でもありました。

翻訳しながらパク・ミンギュさんに質問すると、(プリントアウトすると)こーーんなに長いメールの返信が返ってくるんです(笑)。すごく言葉が豊富で発想も豊富ですし、メールをそのまま小説にしてもいいのではないかと思うくらいで、発想が湧いて湧いて止められないタイプの人だと思うんです。瞬時に言葉にすることが出来るスピードもあるし、放っておいたらどこまでも物語が出てきて出てきて止まらないタイプ。今年は過去に雑誌に発表した作品が本になって相次いで出る予定ですし、新連載も始まったので、これからも本当に楽しみです。
先日来日した、『誰でもない』の作者、ファン・ジョンウンさんは、実に作家らしい作家だといえそうです。書評家の豊﨑由美さんが、書評が書きづらい作家で、ものすごく魅力的だけれども要約が出来ない、あらすじを要約しても伝えたことにならない特異な作家という風に仰っていて、私もそう思います。ストーリーがいいとか描写がいいとか、そういうことではなく、一体となって書かれたエクリチュールを浴びるように体験する。そういう作家だと思っています。非常に完成度が高く、印象に深く長く残る作家で、私は大好きです。日本に二冊紹介されましたが、彼女は決してこの地点にとどまっておらず、今もどんどん変貌しているんですよね。『誰でもない』に収録された「笑う男」を中編に膨らませたものが昨年文学賞を受賞しましたが、今はそれをさらに膨らませ、朴槿恵弾劾デモの様子まで盛り込んで単行本として刊行するそうで、本当に楽しみにしています。
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