望月裕二郎『あそこ』(2013) トランクスを降ろして便器に跨って尻から個人情報を出す|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2018年5月1日 / 新聞掲載日:2018年5月4日(第3237号)

トランクスを降ろして便器に跨って尻から個人情報を出す
望月裕二郎『あそこ』(2013)

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あそこ(望月 裕二郎 )書肆侃侃房
あそこ
望月 裕二郎
書肆侃侃房
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いってみれば「うんこ」を「個人情報」に言い換えただけの短歌であるが、それだけなのにこんなに面白い。お尻からいろんな文字情報がどばどばと出てくるシュールな映像がどうしても浮かんでしまうからだろうか。

個人情報という言葉が一般化したのは、個人情報保護法が全面施行された2005年以降のことだろう。それによって本来は抽象的な概念だった「個人情報」が、実体のあるものとして感じられるようになった。新聞記事の「個人情報が漏えい」という言い回しにもあらわれているように、なぜか「個人情報」は液体のようなイメージで発想されているらしい。

トイレはきわめてプライベートな空間であり、そこでどのような営みがなされているかは意外とブラックボックスだ。「トランクスを降ろして便器に跨る」という行動すらも、そこからイメージするものは人によってまるでばらばらという可能性すらある。トイレという密室空間は、「個人情報」で充満しているのだ。そんな空間のなかでは、お尻から出るものだけが実体として他者と共有しうる「情報」なのかもしれない。もちろんその「情報」は、たいていの場合すぐに水で流されてその空間から消えてしまうわけであるが。

この歌集にはこんな歌も入っている。「トイレの蛇口強くひねってそういえば世の中の仕組みがわからない」。「個人情報」にまみれたまま閉ざされた「個室」の不安は、現代の都市社会そのものへの不安とも通底している。(やまだ・わたる=歌人)
この記事の中でご紹介した本
あそこ/書肆侃侃房
あそこ
著 者:望月 裕二郎
出版社:書肆侃侃房
以下のオンライン書店でご購入できます
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