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手塚治虫―深夜の独り言
2018年5月1日

手塚治虫―深夜の独り言(7)教師もまんがを描くべきだ

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「最近の読者は真面目すぎる。僕がストーリーまんがの中に“ヒョウタンツギ"を入れると、“何でこんなふざけた物を入れるんだ"という抗議のハガキが舞い込んで来る。僕は“ヒョウタンツギ"を入れる事によって、重苦しい雰囲気のシーンを柔らげるつもりなのに」
と先生は慨嘆する。また時代劇のまんがに“ヒゲオヤジ"を登場させ、街道を歩いてひと休みし、着物の袖をまくって腕時計を見て「おそいなあ」とつぶやくシーンがある。
「僕は江戸時代に腕時計を巻いて歩く事などあり得ないのは百も承知です。それなのに、“この時代に腕時計はない"といったお叱りの投書を受ける。ギャグなのに分かってもらえない。真面目すぎるのは困ったものだ」
とションボリする先生。今の読者はこのようなシーンをどう解釈するのだろうか?

ここで“ヒョウタンツギ"誕生の秘密を少しお話しよう。手塚ファンなら釈迦に説法だろうが、このキャラクターは、妹さんが先生の描いていたまんがの片隅にひょうたんの形の顔にツギハギをつけ、ひょっとこのような口と目、鼻をつけたキャラクターをつけ加えた。簡単に言えば妹さんの落書き。先生はこれを面白く思って、後に先生のまんがのギャグキャラクターとして定着したのだ。

ある時、教育の荒廃について先生と話をしたことがある。先生は「教師もまんがを描くべきだ」とつぶやいた。そして、
「中村さん、子供はまんがが好きなんです。そして自分でもまんがを描いている人は一杯います。その全ての人がプロになれるわけではないですが、まんがを描く事によって人を観察する目が養われていくんです。あ、この人怒っているなと思った時の目の大きさ、口元の変化、頬の動き、これらをまんがにする事によって人間は成長していくんです。僕がそうだったんですから。だから教師もまんがを描いてほしい。そうすればヒトクラス四十人の顔を見ただけで一瞬のうちに一人一人の健康から心理状態までわかるんです。授業だけが教育ではない。子供一人一人の生活に教師がのめり込んで行ったら、教師の身体はいくつあっても足りない。けれどまんがを描くことによって、一人一人の人間がわかってくるんです」
と熱く語ってくれた。成程なあと心服したのであった。(なかむら・かずひこ=元小学館編集者)
2018年5月4日 新聞掲載(第3237号)
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