コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ 書評|永見 瑞木(白水社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年4月28日 / 新聞掲載日:2018年5月4日(第3237号)

デモクラシーの可能性を探る 
「われわれ」を勇気づける潜在的メッセージに満ちる

コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ
著 者:永見 瑞木
出版社:白水社
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フランス大革命の登場人物と言えば、「革命の大天使」または「死の天使」サン・ジュストや「恐怖政治」の代名詞みたいなロベスピエールの名が直ちに思い浮かぶ。一方、本書の主人公コンドルセは彼らに比すれば革命史の中の一点景的人物にすぎないと思いなしていたものだ。著者自身言うように「なぜコンドルセか」と度々尋ねられた由で、他の政治家・革命家らに比べれば、確かに地味な存在に見えたことは否めない。しかし一読、それがとんでもない誤りであることを思い知らされた。

巻頭、政治学史を専攻する著者は、日本をはじめ世界の政治的混迷の状況を踏まえ、デモクラシーの抱える矛盾に意識的である。しかし、デモクラシーは未だ若い(「そもそもデモクラシーが各国で定着し始めたのは、せいぜいここ百年程のことであり……」)。その可能性をコンドルセの足跡を辿ることによって探ろうではないか、と。そのための方途は、「知の交流(la communication des lumiéres)」の時代下の「下からの統合」と新たな「政治秩序構想」である。これらはいずれもコンドルセの著作から汲み取られたものだが、彼の思想的=政治的試みに寄り添い、それが本来持っていたはずの射程を明らかにし(獄中で自殺したコンドルセの「未成の夢」)、同時に、直接的な言及は禁欲されてはいるものの、この「現実」(当時も今も)を生きる―生きざるを得ない「われわれ」を勇気づける潜在的メッセージに満ちている。本書は2015年に提出された博士論文を元にしているとのことで、学術的な価値はもとより筆者などの容喙すべきものではないが、今言ったようなプロブレマティックにおいて状況的にもすぐれた意味を併せ持っているだろう。

本書のもう一つの魅力は、アメリカ独立とフランス革命の綾だ。むろん、通史的には両者の歴史的関係は常識だが、ベンジャミン・フランクリン=コンドルセの関係を軸に、「教育」「科学」の両面からこの時代状況のドラマを描いたものは、そうはないのではないかと愚考する。教育者にして科学者のこの両者の友情は、彼らが図らずも置かれてしまった苦渋の状況への相互的理解というか惻隠の情みたいなものを想像すると、いっそ感動的ですらある。

ここで、本書の随所に散見される文章の一パターンを引用しよう。「コンドルセは社会の存続には人々の信頼が不可欠なことを十分自覚すると同時に、それは常に問い返され・・・・・、更新される必要があると考えた。そうしてこそ人々の信頼は維持され、社会の安定につながるのである。」(傍点引用者)

どうだろうか。この「問い返し」の姿勢こそ、コンドルセが憲法草案にせよ、地方議会構想にせよ、常に求めたものであり、それはつまり、一度決めた「制度設計」を決して固定的で変更不能なものにはしないという考えというか覚悟の現われであったということである。それを保証するためにこそ、公教育の充実が求められ、「制度を十分に運用しうる市民を育成すべく」、「常に長期的な視点から」、「党派的抗争からは距離を置き」、「利害の対立を越えた統合」を目指したが、残念ながら実を結ぶことはなかった。……しかし、これを「見果てぬ夢」の哀歌としてはなるまい。「コンドルセの構想は(…)十八世紀後半以降のフランスにおける中央集権国家の歴史的形成過程について、もう一つの可能性を示唆する視点を提供しうる」云々、そうだろう。そうでなくてはならない。学術が単に学術に留まらず、それこそコンドルセが考えていた「現実」への変革が可能な、そういうモメントが期待しうる本である。コンドルセが当時見ていたはずの「現実」を、われわれもまた少しでも共有したいものである。(蛇足を加えると、著作権に関わるコンドルセの思想も当節のあまりにも醜い利権主義的な捉え方とは異なり、「知の共有」をベースにした清々しいものだ。)

この実に学術的に篤実な論文は、その外観にもかかわらず、その昔、京都丸善にそっと置かれた檸檬のようなものかもしれない。そう期待する。
この記事の中でご紹介した本
コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ/白水社
コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ
著 者:永見 瑞木
出版社:白水社
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