連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く54|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2018年4月28日

連 載 ヴィスコンティ ジャン・ドゥーシェ氏に聞く54

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30歳頃のドゥーシェ
JD 
 ヴィスコンティの映画の登場人物にとっては、「美」の世界が常に問題になります。しかし同時に、彼らが生きる世界は、その「美」自体によって破壊されていきます。ヴィスコンティの映画で興味深いのは、このような「美」のあり方です。ヴィスコンティとは「美」を撮った映画作家です。彼の作品の前半部は、絶対的な「美」によって彩られています。『ヴェニスに死す』の始まりの淡い風景の中で徐々に姿を表してくる客船とマーラーの音楽は、見事だとしかいいようがありません。『夏の嵐』や『ルートヴィヒ』でも前半部には絶対的な「美」があります。そこには調和のとれた「美」の世界が存在するのです。しかしながら、ヴィスコンティのおおよその作品には、その「美」の自己破壊もが存在しています。ヴィスコンティの生きていたような「美」とは、実際には幻影にすぎません。そうであるからこそ、「美」の世界に囚われた人々は、その「美」自体によって自らを滅ぼして行くしかないのです。
HK 
 具体的には、どのようにして、そのような「美」の自己破壊が訪れるのですか。
JD 
 それに関しては『山猫』が非常にわかりやすい例です。『山猫』という作品全体が自己破壊という主題によって成り立っています。サリーナ公爵(バート・ランカスター)が見つめる世界には「美」が溢れています。彼にとって、世界とは「美」そのものです。しかし、現実の世界とは、貴族が見る世界ほどに美しいものではありません。華やかな舞踏会の舞台裏には、積み上げられた小便器の山が存在するのです。

ヴィスコンティのすべての映画は「美」の自己崩壊によって成り立っています。世界の中に美しさを見出さなければいけない。しかし、その美しさは紛い物でしかなかった。これゆえに、ヴィスコンティの映画は非常に力強いのです。
HK 
 映画の最後には、観客も、そのような「美」から現実に引き戻されます。先ほど例にあげた『イノセント』の最後の画面、つまりヴィスコンティ映画の最後の画面はストップモーションでした。映像が停止し、映画の世界が終わってしまったということを意識せずにはいられません。
JD 
 ヴィスコンティ自身が、「美」に囚われた人間です。だからこそ、彼自身も自分の映画の終わりに、自らの手を通じて現実の世界へと立ち戻る必要があったのです。加えて、観客たちもヴィスコンティによる「美」の世界から、現実の世界に戻らなければいけません。現実の世界は、ヴィスコンティの世界のように、美さだけによって成り立っているわけではありません。
HK 
 この前のシネマテークのレトロスペクティヴで全作品を見直したのですが、確かに本当に力強い作品ばかりでした。
JD 
 本当に力強い映画です。そして暴力的でさえある。すべての登場人物たちは甘美である。また、荒々しくもある。

別の観点から再度話を進めましょう。そのような力による関係を生み出すのは、何よりも階級による関係性です。『山猫』において、アラン・ドロン演じる若い貴族は大貴族の世界から去ろうとします。それゆえに叔父であるサリーナ公爵との間に亀裂が生まれます。後半部の有名な舞踏会のシーンにおいて、そのような軋轢と貴族社会の崩壊が同時に見られます。

登場人物たちを演じる役者の選択に関しても、ヴィスコンティはとてつもないことをしています。『山猫』の公爵を演じるのはバート・ランカスターです。根っからのアメリカ人で、ウエスタンやサーカスの軽業師などを演じる大衆的な役者でした。そのような俳優が急に、公爵の役を演じることになったのです。しかしながら、映画の歴史の中で『山猫』のバート・ランカスターほどに真実味を帯びた公爵を演じることのできた役者はいません。公爵とは、『山猫』のバート・ランカスターのような人です。『家族の肖像』の中でも、かつての知識人の姿をありありと演じています。ヴィスコンティの映画を通じて、貴族的俳優となったのはバート・ランカスター自体です。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2018年5月4日 新聞掲載(第3237号)
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