最高裁回想録 学者判事の七年半 書評|藤田 宙靖(有斐閣)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年4月28日 / 新聞掲載日:2018年5月4日(第3237号)

『最高裁回想録 学者判事の七年半』 藤田 宙靖著
東京大学 吉沢 健太郎

最高裁回想録 学者判事の七年半
著 者:藤田 宙靖
出版社:有斐閣
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「裁判」と聞いて、いいイメージを持つ人は少ないだろう。当事者として接すれば厄介なものだし、第三者として接するには堅苦しくて難解。学生として法律を専攻する私自身、法律や判決文などのテクストと向き合う日々で時折息がつまる。18才選挙権の導入で大学生も投票に足を運ぶことができるようになったとはいえ、国民審査の用紙に並ぶ裁判官の名前を見て、いったいどれほどの人が顔を思い浮かべることができただろう。裁判員制度が導入されたといっても、裁判員になって見なければ裁判所の中身など知りようがない。

そうは言っても、新聞をひらけば、社会面には「〇〇被告に実刑判決」といった犯罪報道が溢れているし、政治面でも「最高裁新判断」とか「司法の判断」といった見出しや「勝訴」の垂れ幕を掲げる弁護士の写真を多く見かける。裁判所というのは、存在を知っていても、誰が何をしているのかイマイチわからない、「人間の顔が見えない」機関なのかもしれない。

本書は、2002年から2010年にかけて最高裁判事を務めた東北大学名誉教授による回想録である。回想は、東北大学で行政法の教鞭をとっていた著者に一本の電話がかかってくる場面から始まる。この電話がきっかけとなり、著者は、判決を分析し時に批判する法学者から判決を実際に下す裁判官へと転身する。裁判官の仕事を通じ、著者は、学者と裁判官の思考経路の違いに気づき、近年の最高裁の変化を実感していく。本書では、仕事以外にも、公邸と裁判所を往復する「修行僧」のような日常生活や宮中行事との関わりにも触れながら、7年半の濃密な裁判官生活が回想されている。読み進める中で、最高裁をはじめとする裁判所がいかに多くの人間によって運営されているかがわかる。

本書の特徴は、著者自身は職業裁判官ではないということである。30年以上研究生活を送っていた著者の視点は、私たち読者の視点に近く、裁判官生活の内実を鮮やかに浮かび上がらせている。ページをめくれば、内容の大部分が、最高裁判事という職業に対する著者の驚きの連続で占められ、そして読者自身もその驚きを追体験していることことに気づくだろう。

本書は、法律を専攻する学生にはぜひ薦めたい。日々作られる判例、法廷意見の裏にある判事や調査官、スタッフの人間模様は、大学で触れる法律や判決に人間の顔を見せてくれる。巻末には、著者が在任中に執筆した個別意見がまとめられている。合わせて読むことで、本書における著者の考え方を一層明確に理解することができる。法律に関心がないという人にも一読してほしい。裁判官も裁判所という機関もきっと人間の顔をしたものに思えてくるはずである。

著者は「司法はいかにあるべきか」という問いに対しては多くを語らず、「司法とはいかなるものであったか」という問いに徹底的に答えている。「司法はいかにあるべきか」――この問いは私たち国民一人一人が向き合うべき問いであり、著者はその格好の材料を提供してくれている。
この記事の中でご紹介した本
最高裁回想録 学者判事の七年半/有斐閣
最高裁回想録 学者判事の七年半
著 者:藤田 宙靖
出版社:有斐閣
以下のオンライン書店でご購入できます
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