ドイツ外務省〈過去と罪〉 第三帝国から連邦共和国体制下の外交官言行録 書評|エッカルト・コンツェ(えにし書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年5月12日 / 新聞掲載日:2018年5月11日(第3238号)

歴史を塗り替える画期的な書 
「過去の克服」作業に向けて

ドイツ外務省〈過去と罪〉 第三帝国から連邦共和国体制下の外交官言行録
著 者:エッカルト・コンツェ、ノルベルト・フライ、ピーター・ヘイズ(、モシェ・ツィンマーマン
出版社:えにし書房
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ナチ時代のドイツ外務省の官僚たちのナチ体制に対する政治的態度はどうだったのか。わけても、占領期・戦争期のヨーロッパ各地での「最終解決」(=ユダヤ人絶滅政策、ホロコースト)に対し外務省は果たしてコミットしたのか、もし関与したとすれば、どの程度積極的にか。以上の問題について歴史的に明らかにし、戦後のポスト・ナチ体制期から現在にいたるまでの人事政策(ナチ体制期と戦後の外務省の人的連続性問題)の展開も合わせ検証するという意味での「過去の克服」作業は、つい最近まで殆ど進捗してこなかった。そうした謎を徹底的に解明するため、「赤・緑」連立政権(社民党シュレーダー首相・緑の党J・フィッシャー外相)成立後構成された独立歴史家委員会(イエナ大学N・フライ教授ら本書編者四人の歴史家を中心にした現代史研究者組織)により二〇一〇年に編集公表された大部の調査報告書が本訳書の原型をなしており、それは上記ナチ体制期時代の官僚組織研究の問題状況を歴史的に塗り替える画期的なものとなった。

本書では、ドイツ初の国民国家として発足した(ドイツ帝国)時からの組織としての体質問題から説き起こされているのがまず目を惹く。日本の明治維新とほぼ同時期の一八七一年に創建されたこの君主制連合国家下の外務省から派遣された各国駐在大使はすべて貴族からなっており、一九一八年のドイツ革命後まもなく誕生したヴァイマル共和国の時代でも国民のわずか〇・一五パーセントしか占めていない貴族出身者がこの民主体制下の外務省でもなお圧倒的であり、ヒトラーが政権を掌握した一九三三年当時もトップ外交官の半分はかかるエリートたちだった。

同年三月全権委任法を強行成立させたナチ党がグライヒシャルトゥング(強制的ナチ化)を国家社会の各種機構や中間団体に敢行していった過程との関連において、本書は外務省自身が戦後もよく引用してきた「学説」をまず槍玉にあげている。<伝統的な外交エリートたちは、ナチ党あるいはSS(ナチ親衛隊)によって駆逐されたり、周辺に追いやられたりした>というテーゼ、またヒトラーお気に入りのナチ党出身リッベントロップ(戦後は連合国によるニュルンベルク国際軍事裁判で死刑になった)外務大臣の下にあっても、<外務省は諸官庁の中でナチに最も抵抗した組織であった>という「神話」が、戦後の省内ではもちろんのこと外部でもいつの間にか汎通することになったのだが、(本書で詳しく取り上げられている)手工業家庭出身で一九二五年入省のフリッツ・コルベのように国外でナチ犯罪追及に命をかけながら、裏切り者の汚名を着せられ戦後連邦共和国外務省への復帰を拒否された例を俟つまでもなく、ナチに同調しホロコーストにも積極的に関与した人びとがむしろ「外務省抵抗神話」を隠れ蓑に戦後も延命を図れたという、ナチ時代との驚くべき人的連続性の実態が、本書の到るところで見事に炙りだされている。

こうした自浄不全は、ドイツの歴史学界自体がナチ時代の歴史家たちの体制へのコミットメントに関する闡明を二〇/二一世紀転換期までなしえなかったこととも深く関わっている(参照、シェットラー編『ナチズムと歴史家たち』木谷勤・小野清美・芝健介共訳、名古屋大学出版会、二〇〇一年)が、かつてのナチが数多生き残っていた一九六〇年代の外務省と、第一次世界大戦のドイツの戦争責任を告発したフリッツ・フィッシャー(ハンブルク大学)教授を攻撃した戦後ドイツ保守派歴史学の「大御所」たちとの緊密な関係を徹底的に剔抉したことも本書を編んだ独立歴史家委員会の見逃しえない功績の一つであろう。本訳書について問題ある箇所を具体的に一点だけ挙げさせていただければ、「帝国大統領ヒンデンブルク」「帝国宰相ヒトラー」という国制史理解にかかわる訳語が繰り返し出てくるが、ヒンデンブルクは(ヴァイマル)共和国大統領のままで一九三三年一月ヒトラーを首相に指名したのであり、帝制に逆戻りしたわけでもないのだからヒトラーも帝国宰相になったのではなく共和国首相になったのであり、やがて独裁者になっていくという歴史的理解を欠いた機械的直訳といわざるをえない。(稲川照芳ほか訳)
この記事の中でご紹介した本
ドイツ外務省〈過去と罪〉 第三帝国から連邦共和国体制下の外交官言行録/えにし書房
ドイツ外務省〈過去と罪〉 第三帝国から連邦共和国体制下の外交官言行録
著 者:エッカルト・コンツェ、ノルベルト・フライ、ピーター・ヘイズ(、モシェ・ツィンマーマン
出版社:えにし書房
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