【横尾 忠則】エイ、ヤッとドンデン返し 狂気と破壊が絵を救う|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年5月22日

エイ、ヤッとドンデン返し 狂気と破壊が絵を救う

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左から難波英夫さん、今井智基さん、岩本太一さんと(撮影・徳永明美)

2018. 5.7
 〈難波さんと新西脇駅で会うことになっているが、家を出る時すでに約束の時間が過ぎている。だが次の瞬間、駅に着いている〉。夢は映画と同様カットの技法で時間を自由自在に編集してしまう。

午後、難波さん、河出書房新社の岩本さん、カメラマンの今井さん来訪。難波さんとはすでに夢で会っている。こういう夢は何というのだろう。予知夢? それとも未来夢?

河出から出版予定の豊島横尾館の写真集についての打合せ。

夕方、どしゃ降り。
マーク・ベンダさんと(撮影・徳永明美)
2018. 5.8
 ニューヨークのフリードマン・ベンダ画廊のオーナー来訪。9月の個展の出品作品の選択をする。さらに新作を10点近く制作予定。数年前から新作はニューヨーク発に変更しているので、気分はニューヨーカーだ。
2018. 5.9
 〈部屋のコーナーに配置されたモノ(?)を片端からつぶしていく〉。快感夢。

東宝スタジオへ散歩がてらにぶらりと。町田市立国際版画美術館でのトーク以来久し振りに会う蜷川実花さんと雑談。

ニューヨークの個展の新作はかなりストレスになっている。絵はストレスによって描かれるがそのプレッシャーもまた大きい。皮肉だけどストレスもプレッシャーもない作品にはパワーもエネルギーも宿らない。

宇野亞喜良さんはぼくが今年度の東京装画賞を受賞したことを知っていて、「ぼくも行こうかな? と思っている」という☎があったが、「ぼくは行けない」と伝える。

今夕の朝日の書評委員会も欠席。
2018. 5.10
 深夜の覚醒ついでにテレビをつけると、中国の複製画家がゴッホの絵を模写している。一度本物のゴッホの絵を見たいと、オランダへ行く。ゴッホ美術館の近くの街頭で自分の描いたゴッホの模写絵を売っているが、自分の得た画料より遥かに高い値段がついている。本物のゴッホの絵を見た中国の複製画家は100年後に認められてもいいから、自分の作品を描きたいと決意して帰国する。そして自分のおばあちゃんと家の近くの風景画を描くが、ぼくはこの風景画の才能に感動してしまった。

「日経おとなのOFF」誌が自画像の特集を企画していて、ぼくの巨大自画像の取材に。「なぜ、自画像を描くんですか?」と問われ、「わからない」と答えるが、その「わからない」故に描くのかも知れない。絵は「わからない」ことが究極の主題ではないのか? この間、誰かは「自分のことはよくわかる」と言っていたが、そーかな? 自分ほど謎の存在はないのではないか、とぼくは思う。「自分のことがよくわかる」なら自画像はおろか、絵など描く必要はない。

このところテレビの出演依頼がバタバタと4、5本集中している。ニューヨークの絵が描き上らないと他のことには関心が向かない。
2018. 5.11
 〈大勢のパーティに行く。細野晴臣さん、坂本龍一さんも来ることになっている。パーティが終るまで3人で話す。話の内容はとりとめもない。不思議だったのは3人共セーターで来ていることと、現在の3人ではなく、かなり以前の頃のルックスだ。この場に高橋幸宏さんがいれば、YMOのメンバーになるはずだったぼくを入れれば4人揃うことになるのに、「いつも誰か一人抜けてるんだよな」と話す。だけど細野、坂本と一緒に会うのは初めて。細野、高橋とは会ったことがある。一番多いパターンは3人バラバラで会うことが結構多い、そんな話をする〉。こーいう話は別に夢ですることもないのに……。

夜中にふとんの上でおでんが飛びはねる。見るとネズミを捕ってきている。部屋からネコもネズミも追い出してドアを閉める。ところが早朝起きるとおでんはちゃんと部屋の中にいる。見るとドアを引いて入ってきていた。化け猫みたいなやつだ。

朝方二度寝する。〈2年前に亡くなった美術評論家の南嶌宏さんから電話あり。「今どこにいるの?」 返事なし〉〈上空に巨大な建物を横にしたような立方体のUFOが音もなく移動していく。その周辺には複数の小型UFOが飛びかっている〉
2018. 5.12
 ニューヨークに送る絵のデッドラインが少し延びた。気分的に随分楽になった。すると怠け心が出てきて、絵から気持が少し離れる。この離脱感がまた必要。気分転換に書評関係の本を読む。

テレビで山田洋次さんと蒼井優さんの対談を観る。山田さんは映画を撮る時、おだやかな気持が大事だと。ぼくは反対で、いつも狂気と隣り合わせ。○い気持になると描けない。描きながら破壊のことしか頭にない。
2018. 5.13
 昨日の絵は暗礁に乗り上げたままだ。外科手術が必要。朝からエイ、ヤッと筆を入れる。強引にドンデン返し的に仕上げてしまう。こーいう時に狂気と破壊が絵を救ってくれる。

夕方、マッサージに。

夜、横山大観のテレビを観る。「無我」と題する絵があるが、無我は頭で描くものではなく、無我の心によって描かされるべきものだ。(よこお・ただのり=美術家)
2018年5月18日 新聞掲載(第3239号)
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