OKINAWA 1965 書評|都鳥 伸也(七つ森書館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年5月19日 / 新聞掲載日:2018年5月18日(第3239号)

現実の根の深さを浮き彫りに 
読む人を抵抗なく沖縄問題にいざなう

OKINAWA 1965
著 者:都鳥 伸也、佐野 亨
出版社:七つ森書館
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沖縄について何も知らなかった若者がドキュメンタリー制作する過程で、次々に気づきを得ていくロードムービーの構成になっており、撮影に同行しているような気分で読み進められる。著者は岩手県に住む都鳥伸也と拓也の30代の双子の映像作家。映画の主人公は写真家の嬉野京子。都鳥兄弟と嬉野との間には42年の年の差がある。

嬉野が1965年に撮った一枚の写真。これが映画の主題である。幹線道路の真ん中に足を投げ出して横たわる幼女。その前で米兵たちはなにもせず突っ立っている。事故は沖縄最北端の辺戸岬に向かう祖国復帰行進のさなかに起きた。米軍のトラックが幼女を轢き殺したのだ。だが駆け付けた警察官には取り調べる権限がなかった。行き場のない悔しさと憤り。せめてこの現実を沖縄以外の人たちに知らせたい。嬉野は行進団の人たちに助けられて一度だけシャッターを切った…。

ドキュメンタリー映画は現場の記録を基本とする。だが嬉野が撮影した事故も、阿波根昌鴻たちによる有名な基地反対闘争もすでに遠い過去の出来事だ。ふたりは、同じ現場に立ち、体験を同じくした人たちの助けを借りて時間を蘇らせる。言葉には今も熱い怒りが燃えていた。阿波根の教えを受け継ぐ謝花悦子は語る。「米軍には道理をもって対峙できたが、今の日本政府には道理すら通じない」。

ふたりは、元海兵隊員として反戦平和を訴え、9年前にこの世を去ったアレン・ネルソンの人生にたどり着く。アレンはこんな言葉を残している。「ベトナム戦争に行く前に、“人殺し”の仕上げをするのが、最終訓練基地である沖縄だったんです」。戦場体験によるPTSDに苦しんでいたアレンは、あるとき自身の抱える心の闇に気づく。「命令されたからではなく、自分自身で殺していいと思ったから殺したのではないか…」アレンは、日本社会に定着した憲法9条はアメリカにこそあってほしいし、世界の国が取り入れるべきだと考えていた。

ふたりの旅は沖縄を学ぶ旅であるとともに、平和をつくるための知恵を見つけていく旅でもあった。

伸也が大切している考え方に、ソクラテスがいう「無知の知」がある。ふたりは壕に入るのも初めてだったし、砲弾の残骸を目にしたこともなかった。知らないことだらけ。が、その初々しさが、読む人を抵抗なく沖縄問題にいざなってくれる。ひょっとして、ふたりは恐るべき戦略家なのかもしれない。そういえば、生涯ソクラテスを研究した教育哲学者の林竹二もまた、何よりも対話と気付きを大切にし、沖縄の歴史に真剣に向き合ったのだった。

ふたりは、2016年に起きた米軍属によって女性が殺害された事件に衝撃を受ける。嬉野さんが命がけでカメラを向けたあの時となにも変わっていない。旅は沖縄の現実の根の深さを浮き彫りにすることにもなった。次回の作品は、沖縄に生きる20代から40代を見つめたものになるようだ。フレッシュで素直さを装った巧みな技をまた見せてほしい。
この記事の中でご紹介した本
OKINAWA 1965/七つ森書館
OKINAWA 1965
著 者:都鳥 伸也、佐野 亨
出版社:七つ森書館
以下のオンライン書店でご購入できます
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