対談=小杉亮子×福岡安則  東大闘争が問うたもの 己の生き方を今問うために  『東大闘争の語り 社会運動の予示と戦略』(新曜社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年5月25日 / 新聞掲載日:2018年5月25日(第3240号)

対談=小杉亮子×福岡安則
東大闘争が問うたもの 己の生き方を今問うために
『東大闘争の語り 社会運動の予示と戦略』(新曜社)刊行を機に

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第2回
日本の学生運動への固定した評価を壊す

小杉 亮子氏
小杉 
 ほかに問題意識としてあったのは、“1968”の学生運動がその後の社会運動にどう影響したのか、ということでした。ヨーロッパ、特にドイツの六八年の若者運動は、新しい女性運動や環境運動などの成立につながったと論じられています。それは同時に、近代社会が成熟して後期近代へと移るときに、新しい社会問題が浮上してくるということでもあります。この点に着目して、社会構造の変化を問う議論も出されてきました。

日本でも、一九七〇年以降、ウーマンリブやフェミニズム、環境運動など、新しい社会運動が起こっているのですが、“1968”については総括されないままです。学生運動が新しい社会運動に与えた影響についても、分析されていません。そして世間では、東大闘争=安田講堂攻防戦というぐらいに、平板に歴史化されてしまっています。  それには、現在まで一貫して続いている、メディアによる否定的な評価や、警察の取り締まり戦略(ポリシング)が影響していると思われます。もう一つは、特定の社会運動を特権的に評価したり、過剰なバイアスをかけて矮小化してしまう、戦後日本社会運動史を語るさいの「史観」の存在です。そうした一連の流れのなかで、日本の学生運動は失敗だったと、負の遺産として片付けられようとしています。そんなふうに簡単に片付けられるものなんだろうか、という強い違和感がありました。
福岡 
 それでこの本で何が言えましたか? 
小杉 
 東大闘争に関わった方たちの問題意識とその結果としての選択を、提示できたのではないかと思っています。闘争に関わった若者たちがしたことを、全て肯定できるわけではないし、そのまま引き継ぎたいとも思ってはいません。でもゲバ棒やヘルメットが、東大闘争の象徴として語られるのは疑問に思うし、非日常の状況だからこそ生まれた思想には、興味を持っています。完全には共感できない他者の内面であっても、理解してみようとすることには意味があるのではないか、と。
福岡 
 東大闘争の当事者に肯定されるか、けしからんと言われるか、読後の感想が楽しみですね(笑)。

小杉さんと一緒に聞き取りしたことは、ぼくにとっては、当事者としてあの時代を振り返るいい機会になりました。あの時代に同じ空間にいたはずの社共闘のメンバーでも、見ていたものは人によって違うことが実感できましたし、衝撃だったのは、浪人時代に民青(日本共産党・日本民主青年同盟)の活動家になった駒場で同じクラスだったGの話でした。東大闘争の生き方が、ノンポリからノンセクトになっていったぼくとは全く違った。彼にとって大学は、民主化し、革命の砦となすべき場所であり、東大闘争は革命に向かうプロセスの一段階という位置付けでした。民青のような旧来の左翼運動の流れの上にいる人たちは、「戦略的」に、革命の手段として運動に関わっていたということですね。

一方ぼくらは、小杉さんの言う「予示的」な立場で、仲間内で合意するまで議論して、目の前にある問題から変えていこう、と動いていました。今ここにある関係性や行動を脇において理想の青写真を描いても、この先の社会がよくなるとは思えなかったのね。

でも、民青系と、全共闘――その中が新左翼の諸セクトとノンセクトに分かれるわけですが――と、ストライキ反対派、という四つの立場があったけれど、その間はきっぱり分かれているわけではなかった。小杉さんは、様々な闘争参加者を一絡げにせず、刻々と変わる闘争の発生から収束、その後までを、当事者の生活史から追って、今できる限りを尽くし、書き上げたと評価できます。
小杉 
 ハワイ大学の社会学者パトリシア・スタインホフの『死へのイデオロギー 日本赤軍派』(岩波現代文庫)は、研究のお手本の一つです。凄惨な粛清殺人という結末ばかりが注目される連合赤軍事件の過程に、当事者へのインタビューから迫ることで、イデオロギーの持つ「人を死に至らしめるほどの力」というものが、浮かび上がってくるんです。東大闘争は連合赤軍事件とまったく別の事象ですが、当事者の語りから、どのような社会的文脈や生活背景があり、何を問題として捉え、どう解決しようとして、闘争が進行していったのかを掬い上げ、固定したネガティブなイメージを壊したいと思いました。 
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この記事の中でご紹介した本
東大闘争の語り ──社会運動の予示と戦略/新曜社
東大闘争の語り ──社会運動の予示と戦略
著 者:小杉 亮子
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
1968〈上〉 ――若者たちの叛乱とその背景/新曜社
1968〈上〉 ――若者たちの叛乱とその背景
著 者:小熊 英二
出版社:新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
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