石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』(2017) 壁一枚へだてて響くおしっこの音にあなたの木漏れ日がある|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2018年5月29日

壁一枚へだてて響くおしっこの音にあなたの木漏れ日がある
石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』(2017)

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トイレというのは究極のプライベート空間であり、現代社会のブラックボックス。だから短歌にとってトイレという空間が発見されたことは大きなことだった。しかし現実のトイレは壁一枚へだてているだけのことも珍しくない。セキュリティは脆弱で、意外とプライベート空間としては心もとない。

おしっこの音が聞こえるくらいの薄い壁。「あなた」はそのことに気付いていないかもしれない。知ってはいけない秘密を知ってしまったような背徳感。初めてこの歌を読んだときは「壁一枚」をトイレのドアと解釈していて、小さなワンルームに「あなた」を迎え入れた、もしくはともに暮らしている。そんな状況で「あなた」がトイレに入っているシーンの一幕、というイメージであった。しかし考えてみるとドアのことを「壁一枚」というだろうか。それはやっぱり「ドア一枚」、もしくは「板一枚」じゃないか。「壁一枚」となれば、さすがに隣の部屋だと解釈するほうが適当なのではないか。

そう考えると隣人のおしっこの音に耳を澄ませながら(もちろんどの壁の向こう側にトイレがあるのかは事前に把握済み)木漏れ日を感じているという変態的な歌になってしまう。しかしこれもまた一つのカウンターのかたちともいえる。現代の短歌で表現されているほど「個」は絶対的なものでもないし、トイレは絶対的な「個」の空間でもない。漏れるところには漏れている。そんな意地の悪さが、この歌の背後にはある。(やまだ・わたる=歌人)
この記事の中でご紹介した本
死ぬほど好きだから死なねーよ/短歌研究社
死ぬほど好きだから死なねーよ
著 者:石井 僚一
出版社:短歌研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年5月25日 新聞掲載(第3240号)
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