連 載 映画と自由 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く57|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2018年5月29日

連 載 映画と自由 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く57

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左から二人目がドゥーシェ(山形国際ドキュメンタリー映画祭にて。1991年)
HK 
 「溝口の映画の女性たちが力関係の犠牲者」であること。それについては、以前にもお話ししていただきました。溝口の映画においては、女性であろうが資本家であろうが、全ての人間が同じである。皆が娼婦である。つまり、資本主義の社会においては、何かの対価として身を売るしかないということでした。
JD 
 皆が娼婦です。売春が常につきまとっています。そのような売春は、自らも何かに囚われた男たちによって存在しています。男たちも身売りの世界の中に囚われ、同じことを別の人々に、とりわけ女性に対して強要するのです。
HK 
 ルノワールのように自由が出てくることはないということですか。
JD 
 溝口において、自由であろうとすることは問題となりません。ルノワールが唯一無二の作家なのは、自由そのものを問題とできるからです。
HK 
 ドゥーシェさんが、偉大な映画作家について話をするときには、いつも「自由」が問題になっているのではないでしょうか。ゴダールやルノワールだけでなく、ボーヴォワの話をする時にも、「自由」という言葉が出てきます。
JD 
 偉大な映画作家と「自由」の関わりは、当然のことです。つまり、本物の映画作家たちは、当然のようにして、自由という概念を、つまり生きるという概念を取り扱います。この「生」の問題については、すでに語っているはずですが、自由という問題についても関わるので、再度説明しましょう。「生」の中には、いくつかの要素があります。生きるという問題に関わることで、「存在」があります。存在するためには、何かが生まれ、その生命が存続しなければいけない。そのようにして、私たちは存在し得るのです。存在するから、「生」がある。

しかし、ここで注意しなければいけないことがあります。私たちは、生きています。しかし、大部分の時間を、誤った問題に割いているのです。より良い状態で存在するために、私たちは将来設計をします。家を買い保険に加入し、それから先に起こり得ることに気が行きがちなのです。現在の中で安心するために、将来設計をするのです。しかし、そのような状態では、結局のところ、存在することの最も重要な理由を見失ってしまいます。存在とは、「生」なのです。「生」とは、完全な自由です。ありとあらゆる瞬間が、それまでとは異なる瞬間です。すべてが新しい瞬間であるからには、すべての瞬間に順応しなければいけません。自由とは、移り変わっていく「生」に順応するための可能性です。その意味において、わずかな人々のみが、生きることを知っていると言えます。大半の人々は、その場で存在を続けるということだけを気にかけ、生きるということの本質に気づいていません。いかにして自分の身を落ち着け、どのようにしてより良い生活を得るのかが、多くの人々がもつ考えです。しかし、「生」とは、そのような不自由に対する自由に他なりません。

偉大な映画作家とは、存在についての物語の取り扱い方を知っている作家のことです。存在とは何か、自分は存在が好きなのか嫌いなのか。存在についての問題が、作品となります。同時に、偉大な映画作家とは、「生」について語る作家でもあります。「存在」と「生」が問題となるからには、偉大な映画作家は「自由」を取り扱うのです。自由とは、生きることの自由に他なりません。本当に偉大な映画作家たちは、そのような要素によって映画を作ります。私がルノワールや他の作家たちを好きなのは、彼らが自由の作家だからです。ルノワールや溝口は、私にとって、その分野に関して絶対的で完璧な映画作家です。それに加えて、ラング、フォード、ロッセリーニ、ドライヤー、ゴダールのような作家たちは「生の自由」についての本当に偉大な映画作家です。一貫して「生」の映画を作り続けています。ルノワールの作品を一つ取れば、「自由」についての映画であるということを自然と理解できます。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2018年5月25日 新聞掲載(第3240号)
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