「ポスト真実」にどう向き合うか 「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2017 書評|八巻 和彦(成文堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年5月26日 / 新聞掲載日:2018年5月25日(第3240号)

「ポスト真実」にどう向き合うか 「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2017 書評
わかりやすい、手軽 な「真実」に抗する

「ポスト真実」にどう向き合うか 「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2017
著 者:八巻 和彦
出版社:成文堂
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早稲田大学の「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座(二〇一七年度春学期)において行われたジャーナリストたちの連続講座を一書にまとめたものである。第一線で活躍するプロフェッショナルたちが学生を前に語った話は、具体例も多く、どれも興味深い。

書名となった「ポスト真実」をめぐる編者の問題意識は、八巻和彦による序論に詳しい。八巻は、ポスト真実的世界が成立した原因として、「生きる世界の巨大化」「私の肥大化」「反知性主義」の三つを挙げる。そしてポスト真実の危機的状況を乗り越えていくために、調査報道の重要性を強調し、権威あるニュースのまとめサイトや信頼性の高いキュレーションサイトを構築するよう提言する。

ここで全一四章のすべては紹介できないため、簡略に概観する。序章でその重要さが強調された調査報道に携わった記者たちによる章が、なんと言っても読み応えがあった。下野新聞編集局の手島隆志と野上裕之による「原発事故五年、隣県からの報告」は、奥日光地域の放射能汚染をめぐる連載を紹介。山陽新聞編集委員の阿部光希は、長期連載の取材経験から、ハンセン病をめぐる歴史と国の責任、社会の無理解、メディアの反省点について書いた。琉球新報記者の高江洲洋子も沖縄の子どもの貧困についての長期連載の経験を元に、取材に際しての困難や問題点、課題を指摘した。NHKチーフディレクターの小川海緒は、震災の災害報道やNHKスペシャルの制作経験から「現場で感じた「違和感」」を大切にすることを説いた。

自身の取材経験を紹介しながら、ジャーナリズムの役割を語ったものも興味深い。東京新聞記者の望月衣塑子による加計学園や前川前文部科学次官をめぐる報道についての章があり、著述家菅野完による自身の取材の手法や原則を示す章がある。栗原俊雄(毎日新聞記者)は硫黄島での取材の経緯や遺骨収集の経験を語り、土生修一(元読売新聞記者・日本記者クラブ専務理事)もこれまでの取材経験から興味深いエピソードを紹介する。

各媒体の特性に応じた役割に、力点を置いた章もある。新潟日報論説編集委員の仲屋淳「地方から原発の「神話」を崩す」は、地方の命の軽視を批判し経済神話の嘘を暴きつつ、地方紙の役割と責任を論じる。安田菜津記は自身の経験を振り返り、フォトジャーナリストの役割を問う。この他、特色のあるテーマとして、清水潔(日本テレビ報道局記者・解説委員)による戦争と報道のあり方を論じるもの、豊秀一(朝日新聞編集委員)による新聞記者の視点から憲法改正問題を考えたものがある。またニューズウィーク日本版編集部の深田政彦はジャーナリズムが仕えるべき「三つの神様」として読み手、事実、民主主義を挙げ、秋山耿太郎(朝日新聞社元社長)は新聞およびジャーナリズムの歴史を整理し、将来のビジョンを語っている。

以上、興味深い記事が多いのだが、書名に惹かれて「ポスト真実」の時代について知りたいと思った読者は、肩すかしを受ける面もある。多くの論者は、必ずしもこのキーワードをめぐって語っているわけではないからである。

ただ、嘘がまかり通る事態にどう対抗していくのか、直接的ではないが考えさせられる言葉もあった。手島隆志と野上裕之は、「目先の利害に縛られるのではなく、対象への尊敬や愛情を基にした将来への明確な視座が必要」(二三四頁)だと述べた。小川海緒は「難しい話になればなるほど、分かりやすくしようとして、自分の知っていることや、社会の常識と言われるものに当てはめていこうとする」(二六九頁)傾向に注意すべきだと言った。「ポスト真実」の時代は、〈わかりやすい手軽な真実〉を追求した結果、引き起こされている面がある。目先の利害やわかりやすさに迎合せず、長期的なビジョンをもって取り組んでいくことが大切だ。
この記事の中でご紹介した本
「ポスト真実」にどう向き合うか  「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2017/成文堂
「ポスト真実」にどう向き合うか 「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座2017
著 者:八巻 和彦
出版社:成文堂
以下のオンライン書店でご購入できます
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