「明星」初期事情  晶子と鉄幹 書評|尾崎 左永子(青磁社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年5月26日

「「私の感受が一番大事だ」と宣言する」晶子のつよさ

「明星」初期事情  晶子と鉄幹
著 者:尾崎 左永子
出版社:青磁社
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今年は与謝野晶子生誕百四十周年にあたる。その記念すべき年に、尾崎左永子氏の半世紀以上におよぶ晶子研究の集大成のひとつともいえる本書を、青磁社評論シリーズ(3)として読める廻り合わせに感謝する。尾崎氏は、この春県立神奈川近代文学館で催された「与謝野晶子展 こよひ逢ふ人みなうつくしき」の編集委員としても尽力され、「『恋衣』そして晶子と古典」と題したご講演もなされた。

「Ⅰ「明星」初期と晶子」「Ⅱ「明星」の女流歌人」「Ⅲ座談・講演記録」の構成の全十三篇のなか、章立てが細やかになされ、初出年次にとらわれずどこから読んでも、新しい時代を拓いた二十世紀初頭の文学界・文壇界に溶け込める。

圧巻は、「明星」初期の一条成美の絵を、

偶然私は、(略)もっとも有効に使われている二点が、世紀末の天才といわれるパリのデザイン画家、アルフォンス・ミュシャの模倣、というよりも模写に近いものであることを発見した。/(略)/「明星」のカットに用いられているのは、一八九六年制作の、サラ・ベルナールのカラー・リトグラフによるポスターの模写である。但し、「SARAH・BERNHARDT」の字を「MIYOJO」と替え、タイル装飾風の背景を星に替えている。しかし原画では背景の外郭を、六稜のダビデの星で埋めてあり、それを模したのか、成美の星も五稜ではなく六稜の星である。女の頭上に輝く星には、わざわざ性のマーク(♀)がかき加えてある。
と解明された件である。想いの筆は熱くミステリーのようである。鉄幹・晶子・登美子の恋のたてひきこそが、ある種のミステリーでもある。私たちは、作品から想像するほかはない。尾崎氏は登美子についても濃やかに読み解く。近世の女流歌人不在の時代から、「「和歌」は、当時社会的規則の強かった男女交際の免罪符にもなり得たのである」と説く尾崎氏は、岡本かの子にしろ女性は皆、兄・弟・父の力の庇護の許、活躍できた面も示す。

明治三十四年一月三日、鉄幹が鎌倉由比ヶ浜の波打際で高須梅渓や高村光太郎らと焚いた「二十世紀を祝する迎火」にもふれる。鎌倉の風土をこよなく愛する尾崎氏はそれに倣い、先年「二十一世紀の迎火」をプロデュースなさったことも記憶に新しい。

「明星」全百号、約十年の歴史は、文字通り文学史に「星の子」として、燦然と輝く。和歌から短歌へ、想いがつながる。

『常夏』所収の〈椿ちる紅つばきちる椿ちる細き雨ふりうぐひす啼けば〉が初出の新聞「大阪毎日」では、「下句は「春雨ふればうぐひす啼けば」で(略)わかりやすく、なだらかではあるがやや大衆向きの作なのは、発表機関のせいもあろうか」と説かれる、「晶子と椿」には尾崎氏の美学が際立つ。晶子を語ることは『源氏物語』そして古典を語ることでもある。またそれは、尾崎氏ご自身をも語ることでもある。「紫式部は私の十一二歳の時からの恩師」とする晶子は『源氏』を何度も通読し、講義はもとより関東大震災で焼失したものも含め三種の口語訳をものした。二万首以上もの晶子の歌に古典の受容をみるのは、尾崎氏にも、香道をはじめ古典文化が血肉となっていらっしゃるからでもある。

晶子を直接知る、堀口すみれ子氏金窪キミ氏との鼎談も収載され、写真からは想像できない声の細さなど記されているので、精力的な文学活動以外の面から親近感も湧く。

鉄幹亡きあとの晶子、御夫君に次ぎ逆縁に襲われた尾崎氏。歌の勁い力を信じていける一書である。
この記事の中でご紹介した本
「明星」初期事情  晶子と鉄幹/青磁社
「明星」初期事情  晶子と鉄幹
著 者:尾崎 左永子
出版社:青磁社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年5月25日 新聞掲載(第3240号)
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