八重山暮らし(43)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

八重山暮らし
更新日:2018年6月5日 / 新聞掲載日:2018年6月1日(第3241号)

八重山暮らし(43)

このエントリーをはてなブックマークに追加
初穂を抱き集落を守る御嶽へ向かう神女。西表島祖納にて。
(撮影=大森一也)
初穂儀礼


稲の初穂が、うやうやしくうなじを垂れる六月…。西表島祖納では「シコマヨイ」が行われる。南国の早い「実りの夏」を祝う。

絡み合う樹木のなかをひと筋の光のようにカンヌミチ(神の道)が続く。神女が携えているのは、早朝に刈り取られたばかりの初穂だ。小高い杜のなかにある聖地、ウガン(御嶽)へと歩をすすめる。初穂をまっさきに神に捧げる…。そのためだけに嶮しい斜面を寡黙に登る。額の汗を拭おうともせず、赤子を抱くごとく稲束を握りしめている。

海と山に見守られた集落の境界を過ぎる。現世のくびきから解き放たれ、峻厳な神の杜に立ちつくす。
「姉さんも、ここへあがって手伝いなさい…」

静かに促される。おんなであれば儀式に参加するのは当然とばかりに。教えられるまま板の間に坐す。皆が一様に背を丸め、初穂の籾を剥き始める。一粒、一粒…、玄米を取り出す。

白い貝殻に振る舞われた御神酒を口にふくみながら、黒い盆の玄米を見つめる。選りすぐった初穂の米が頬を寄せ合い盛られている。
「お願いばかりでは、神さまもあきれてしまうにちがいないから…」

島暮らしの日常に教えられた。願うよりも、まずはこころからの「有難う」を神に伝えるのだ、と。

まめやかな祈りの姿が息づいている。この島には。
(やすもと・ちか=文筆業)
このエントリーをはてなブックマークに追加
安本 千夏 氏の関連記事
八重山暮らしのその他の記事
八重山暮らしをもっと見る >
人生・生活 > 生き方関連記事
生き方の関連記事をもっと見る >