佐藤淳二「68年から人間の終わりを考える」/小泉義之「1968年以後の共産党」 <68年5月>と私たち 京都大学人文科学研究所2018連続セミナー第1回載録|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月1日 / 新聞掲載日:2018年6月1日(第3241号)

佐藤淳二「68年から人間の終わりを考える」/小泉義之「1968年以後の共産党」
<68年5月>と私たち
京都大学人文科学研究所2018連続セミナー第1回載録

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第3回
図書館、炎上せず 1968年

小泉 義之氏
小泉 
 1968年から69年にかけての大学闘争において、1968年11月あたりに日本共産党は学生運動の方針を変更したと指摘されることがあります。東大では、68年10月に全学部で無期限ストライキに入っていますが、11月に入ってから共産党は無期限ストライキの解除へと方針転換し、闘争の収拾へと、大学秩序の復活へと方針転換しています。この経緯は良く知られています。ここでは、その経緯を、実力行使・暴力行使をめぐる方針の変化として辿り直すことから始めます。

11月12日、東京大学総合図書館をめぐって攻防がありました。『朝日新聞』の記事「学生同士が乱闘――共闘会議、図書館封鎖できず」(11月13日朝刊)を引用します。
「十二日夜、全学封鎖をめざす全学共闘会議(反代々木系)などの学生たちと、封鎖に反対する東大闘争勝利行動委員会(代々木系)などの学生たちが、総合図書館前で約三十分間角材などではげしく乱闘、約四十人の負傷者を出した。封鎖はされなかったものの、教官首脳陣はほとんど姿をみせず、大学当局は、新体制となっても収拾への手がかりをつかめないまま、ついに学生と学生による流血事件という最悪の事態となった。/反代々木系の学生約千人は、同日午後四時ごろから安田講堂内で「全学封鎖貫徹総決起集会」を開き、闘争態勢強化、全学バリケード封鎖の方針を再確認した。同六時半ごろ、工学部一号館を封鎖した。これに対し、代々木系も学生約三百人が他大学の学生の応援を得て、ヘルメットで武装、夕方から図書館前にすわり込み、早くから流れていた反代々木系の図書館封鎖に備え「実力阻止集会」を開いた。/午後八時半すぎ、反代々木系は代々木系学生に角材をふるってなぐり込んだ。代々木系も用意の角材で抵抗、乱闘となった。牛乳ビンや発煙筒も飛び、叫び声やなぐりあう音が、構内横の本郷通りまで響いた」

一部ではよく知られていることですが、すでに共産党は、明治大学や法政大学で組織的暴力を行使していました。しかし、それらはいわば夜陰に乗じて行使されており、マスコミに報道されることを予想して行使されるものではありませんでした。ところが、この図書館をめぐる攻防において、共産党は、初めて新左翼諸党派に対して公然と「実力阻止」に打って出ました。ところで、東大闘争全学共闘会議は、図書館を封鎖対象とした理由について、次のように書いていました。これも引用します。
「11月11日、全共闘は、当局との交渉を打ち切り、全学封鎖に邁進するという方針を決定した。全学封鎖の突破口として、総合図書館封鎖が設定された。総合図書館は、東大の研究教育機能の上できわめて重要な位置を占めており、そこは、闘争の進展とは無縁に、ただひたすら「学問」にはげむ点取虫の最大の巣窟となっていた。既成の東大を根底から批判して運動を進める全共闘は、このような状態をいつまでも許しておくわけにはいかなかった」(東大闘争全共闘会議編『砦の上にわれらの世界を』)

この文書によるなら、図書館封鎖の目的は、図書館の研究教育機能を停止させることに置かれていたというよりは、国家公務員試験や司法試験での合格を目指す「点取虫」の法学部生の「巣窟」である図書館閲覧室を封鎖することに置かれていました。そうであればなおさらのこと、全共闘側からするなら、共産党の暴力行使は、体制側の「点取虫」を擁護する反動的な闘争方針に見えたわけです。実際、図書館攻防は、もちろん共産党によって準備されていた行動でしょうが、法学部生の座り込みから始まっています。『赤旗』の記事「「全学封鎖」の策動阻止――正当防衛権を行使、トロツキストを撃退」(11月13日付)は、次のように報じています。
「「全学封鎖阻止」「東大の真の民主化を勝ち取ろう」「統一と団結」などのプラカードをかかげた学生・院生は東大構内をはげしくデモした後、総合図書館前にすわりこみ、図書館封鎖を阻止する闘争をつづけました。/図書館前には、図書館を利用していた法学部学生など十数人が、トロツキスト学生らの図書館封鎖予告に憤激し、すわりこみをおこなっていましたが、東大闘争勝利行動委員会と東大大学院生協議会のデモに拍手を送り、そのすわりこみに合流しました。/あくまで“全学封鎖"を強行しようとするトロツキスト学生は〔……〕午後七時三十分、午後八時三十分の二回にわたって角材などのほか毒物入りの消火器などをもっておそいかかってきました。/しかし統一代表団準備会議を支持する多くの学生たちは、敢然としてこれに立ち向かい、ついにトロツキストの襲撃をはねかえし、“全学封鎖"の策謀に痛撃をあたえ、阻止しました」

読んでおわかりのように、共産党は、「全学封鎖」方針を阻止すべく、また、「点取虫」を擁護すべく実力行使に出たわけですが、それにもかかわらず、共産党は、その暴力行使を、体制による全共闘弾圧の代行と見なすことはありませんでした。むしろ、少なくとも学生党員にとって重要であったことは、共産党は、図書館をめぐる攻防において、大学闘争の所定の目的を実現するための手段として対抗―暴力の行使を辞さないということを示したということでした。それはまさに、敵が暴力を行使するなら必要な対抗―暴力を行使するとする有名な「敵の出方論」、これの大学への適用であったと言えます。

実は、このような闘争方針は学生党員の間では、早くから唱えられていました。それが公然と打ち出されたのは、68年7月、共産党系全学連の第19回大会基調報告においてです。その報告においては、「反全学連諸派の不正選挙、執行部への不当な居すわり、自治会の暴力的占拠、第二自治会のデッチ上げなどの卑劣な策動を軽視することなく、あえてかれらが暴力的手段に訴えるならばこれを粉砕」するとの方針が打ち出され、「彼らの暴力に屈して、逃げまわったり、主張をまげたり、あるいは逆上したりする傾向」を払拭し、「彼らがあくまで暴力をもって攻撃しかけてくるならば、学友の力を結集し、正当防衛権を断固として行使し、実力をもって粉砕する」との方針が打ち出されています(東京大学全学大学院生協議会・東大闘争記録刊行委員会編『東大変革への闘い』労働旬報社)。そして、それを追認するかのようにして、共産党中央は、『赤旗』「主張」(9月13日付)において正当防衛権論を打ち出していきます。図書館攻防については、『赤旗』「主張」(11月14日付)において、次のように書かれています。
「12日夜、東大で、統一代表団を支持する学生が決起し、みずからも自衛体制をとって、トロツキスト暴力集団の襲撃を撃退し、かれらの「全学封鎖」という暴挙を断固阻止したことは、いま大きな反響を呼んでいます」

共産党の正当防衛権の行使は、たしかに「大きな反響」を呼びました。一面では、政府自民党やマスコミによって、共産党は新左翼と同じ暴力集団として取り扱われるようになりますが、他面では、正当防衛権の行使によっておのれの革命性を行動で示すことができるようになったという意味で、学生党員には解放的な効果をもたらしました。しかも、図書館をめぐる攻防は、共産党と新左翼の初めての大規模な衝突であり、共産党系学生が初めて「勝利」した衝突でした。こうして、68年11月の攻防は、全共闘の全学封鎖方針にとって転回点をなしただけでなく、共産党の学生運動方針においても決定的な転回点をなしました。第一に、これはまったく忘れられていることですが、68年11月以前の学生運動においては、共産党と新左翼が少なくとも学生自治会の運動方針については一致することもあったのですが、そのような学生運動レベルでの一致がほとんど不可能になっていきます。そして、第二に、学生運動が全国の大学へ波及していく過程で、共産党系学生と新左翼系学生の間で大小さまざまなレベルで暴力的な衝突が引き起こされていきます。この時期の衝突はときに陰湿で陰惨であり、その後の新旧左翼の対立を心理的にも根深いものにしました。第三に、正当防衛権の行使をめぐって共産党中央と学生党員の対立が浮き彫りになっていきます。その最初の徴候は、東大闘争の指導体制の変更でした。宮崎学の証言(『突破者』幻冬舎)によるなら、共産党中央は、東大細胞の闘争方針に対して、「トロツキストと革命性を競い合う極左冒険主義」であると批判するようになり、まさに図書館攻防の直後に、東大闘争勝利全学連行動委員会は解散させられ東大民主化行動委員会へ再編されます。以後、共産党中央委員会が東大党細胞を直接に指導していくことにもなります。第四に、これが重要ですが、共産党も新左翼も組織的暴力の行使を闘争方針とすることを通して、大学闘争を労働運動や政治闘争へと押し広げる展望において、近い将来の武力闘争の可能性を考慮に入れていくことになります。この点は、68年の大学闘争から70年の安保闘争と71年の沖縄闘争への移行を考える上で重要です。
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