かくれキリシタンの起源 信仰と信者の実相 書評|中園 成生(弦書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月2日 / 新聞掲載日:2018年6月1日(第3241号)

かくれキリシタンの起源 信仰と信者の実相 書評
かくれキリシタン「禁教期変容論」を民俗誌的研究により問い質す

かくれキリシタンの起源 信仰と信者の実相
著 者:中園 成生
出版社:弦書房
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最近、ユネスコの諮問機関が、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」のユネスコ世界遺産リストへの登録を勧告した。禁教期にもかかわらず密かに信仰を継続した長崎と天草地方における潜伏キリシタンの独特の文化的伝統の証拠としての価値が認められたという。

私たちは、日本のキリシタン禁教や、この「かくれキリシタン」について、なんとなく何かを知っている、つもりでいる。「かくれキリシタン」とは、厳しい禁教のもと外部に秘したまま世代を超えて信仰を維持し、いつしか、本家のキリスト教と異なった民間信仰とも言えるような変化を遂げた信仰、といったイメージだろうか。中園は、禁教期に本家のキリスト教と隔絶し潜伏することで独特な「変容」を遂げたという、「かくれキリシタン」の捉え方は、少なからずこれまでの研究をも拘束してきたと、問い質す。

本書は、このいわゆる「禁教期変容論」を、キリシタン信仰の要素のみを取り出して論ずるのではなく、一般信者たちの信仰生活の総体を検討することによって相対化していく。

イエズス会の宣教師たちが遺した書簡や報告書を読みとき、キリシタンの布教が信者の暮らしにどのように働きかけたのか、その時代相を掘り起こすとともに、フィールドワークを含め、平戸・生月島周辺、長崎市の外海・浦上、そして外海からの移民が定着している五島列島などそれぞれのかくれキリシタンのありようの地域差をあきらかにしている。

まず、キリシタン宣教師たちの記録から、彼らが布教にあたって、日本人の生活に合わせて人生儀礼や農耕儀礼などを具体化して柔軟に対応し、それらは、近代になって禁教が解かれ再布教されたキリスト教の儀礼などと比べると随分異なった様相を呈していたという。禁教令以降、宣教師と接触できなかったかくれキリシタンたちは、かえってそれまでの信仰の形態を墨守し続けたのであり、独特の変容を遂げたというイメージは、むしろ時代の遠近を無視して明治期以降のキリスト教を基準に、かくれキリシタンの信仰を評価したために生み出されたと考えられる。

また、外海・浦上では、葬送の際など他宗教・信仰の要素を対峙的に排除する傾向があるのに対して、平戸・生月島では、葬送儀礼もキリシタン信仰と仏教によるものを併存させており、他宗教・信仰と親和的であるという、一見正反対の特質が指摘される。しかし双方とも、それぞれの環境のなかでキリシタン信仰を残し継続させようとしてきた信者たちの歴史のあらわれなのである。特に、平戸・生月島は、漁場にめぐまれ水産業による経済圏を形成しており、異なった宗教の儀礼を併存させる充分な経済的背景があったという。

本書は、信者の暮らしのなかの信仰の総体を民俗誌的に検討することで、これまでかくれキリシタンのイメージを強く規定してきた「禁教期変容論」を問い質すことに成功している。

キリシタン禁教は、かくれキリシタンを生んだ一方で、徳川幕府の寺院統制や檀那寺制度、神主の制度など、今日にまで通じる信仰環境を生み出した。その意味でキリシタンは、現代の私たちが伝統として意識している宗教・信仰のありかたを生み出し規定し続けているという中園の指摘は、かくれキリシタンが、今日の私たちの宗教環境を映し出す合わせ鏡であることを示している。

非西欧におけるキリスト教の「独特」の展開の証拠として世界遺産に登録されるという「かくれキリシタン」の遺産だが、本書を通して、改めてそれは私たちの宗教と信仰をめぐる足元の問題に通じていることを、認識することができるはずだ。
この記事の中でご紹介した本
かくれキリシタンの起源 信仰と信者の実相/弦書房
かくれキリシタンの起源 信仰と信者の実相
著 者:中園 成生
出版社:弦書房
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