新・カント読本 書評|牧野 英二(法政大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月2日 / 新聞掲載日:2018年6月1日(第3241号)

「現代」の哲学の諸相をあきらかに 
多彩な問題の所在を簡潔に示す概説書

新・カント読本
著 者:牧野 英二
出版社:法政大学出版局
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『新・カント読本』と題された本書は、「現代」という観点からみてカント研究を広く紹介する概説書であるが、同時に広くカント哲学の継承という観点からして「現代」の哲学の諸相をあきらかにする書である。本書は二十五本の論考とコラムから成り、巻末には詳しい年譜、文献目録が付属している。以下、評者の個人的関心からして特に印象的だった章をのみ紹介する。

第一部「カント哲学のグローバルな展開」においては英仏独西露、さらに中韓、ペルシャ語圏における現代までのカント研究の概観が提示される。ことに「フランス語圏のカント受容」を扱う宮﨑裕助氏の第一章と、「英米圏のカント研究」を扱う城戸淳氏の第二章は、両者あわせて本書全体の眺望をあらかじめ明瞭に見通すようで爽快である。
つづく第二部「カント哲学の新しい読み方」では、前批判期、三批判書、そして『オプス・ポストゥムム』と呼ばれる遺稿著作に区分しつつ、カント自身の著作に関する研究の最前線が紹介される。「カテゴリーの演繹論と図式論」を扱う鵜澤和彦氏の第十一章は、『純粋理性批判』最大の難所の簡潔な紹介として見事である。まずはD・ヘンリッヒの古典的研究が紹介され、さらに「知覚経験の論理的構造」をめぐるW・セラーズ、J・マクダウェルらの現代哲学の論争へと議論が接続される。「演繹論の他に、なぜ図式論が必要になるのか」というカント解釈上の問題に関し、現代哲学における「非概念主義」は図式論に固有の役割を主張するが、「概念主義」はこれを否定して「カテゴリーの論理的機能を強調」するため、これは「ライプニッツの『汎論理主義』に再び後退する」道である。このうえで鵜澤氏自身は演繹論と図式論を「超越論的真理概念を形成する両輪」として位置づけ、前者を支持している。相原博氏の第十六章は「『判断力批判』における『自然の技巧』の体系的意義」を示している。すなわち、反省的判断力は、「自然の根底にある」と想定された「超感性的基体」――すなわち物自体――が、「実践理性が自由として規定する」ものと同一であると思考するが、この思考を可能にしているのが「自然の技巧」という原理なのである。われわれは自然をあたかも自由な行為者の如く見て、そのうちに「技巧」を読み取る。相原氏は「類比をとおして仮説的に推論する」反省的判断力のはたらきを、「自然の解釈学」として理解する。このとき、G・ベーメによれば、現代において「科学技術の進歩が、自然と技術の区別を解消しつつある」がゆえに、カントの自然概念はもはや妥当せず、「現代の自然概念は、技術による製作可能性という観点から把握すべきである」。だが相原氏によれば、反対に、「『自然の技巧』にかんするカントの思考は、自然と技術の対立関係をまさに解体する」ものである。反省的判断力は「自然の技巧」を「主観的な原理」としてもつにすぎず、「自然を構成するわけではない」。むしろ「自然こそが美しい技術に規則を与える」のである。

第三部「現代の哲学からみたカント哲学」では、現代倫理学や政治理論等々におけるカントの思想と――J・ロールズをはじめとした――その継承者たちの帰趨が論じられる。評者にとっては特に「超越論的記号論と価値の超越論的論証」を扱う近堂秀氏の第二十五章が、「現代の言語哲学」におけるカントの後継者たちの諸相を手際よくまとめており、学ぶところが多かった。

哲学に関心をもつすべての読者にとって、おそらく本書はさまざまに重要な知見を提供するものである。各章は通読しやすい長さで多彩な問題の所在を簡潔に示しており、議論の詳細については最新の研究論文が指示されている。特にこれからカントに関わる卒業論文を書くことを検討している大学生にはこの上ない手引きとなるだろう。
この記事の中でご紹介した本
新・カント読本/法政大学出版局
新・カント読本
著 者:牧野 英二
出版社:法政大学出版局
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