【横尾 忠則】私でありながら私でない Y+T「画家の肖像」展|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2018年6月5日 / 新聞掲載日:2018年6月1日(第3241号)

私でありながら私でない Y+T「画家の肖像」展

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2018.5.21
 〈今描いている絵の背景の一部に鯉のぼりの一部を描くと面白いかも、と想像してみる〉。醒めて想像してみるが全くつまらない。夢は時にはハッとするような霊感を与えてくれるが、今日みたいに最低最悪の発想を言ってくることもある。こういう貧困な夢の原因はストレスかも知れない。夢はもっとスペクタクルでなければならない。

玉置浩二さんのコンサートのポスターの色校正が出る。ご本人はエライ気に入っておられるそーだが、描いた本人は描き上がると、ハイ、それまで、で未練はない。

ジャスパー・ジョーンズのレゾネ5冊をN・Yの画廊のベンダさんがプレゼントしてくれる。日本円で15万円もするが、気前のいいギャラリストだ。

2018.5.22
 那須から美術評論家の谷新さん来訪。宇都宮美術館を退任されてインディペンデントキュレーターとして展覧会などの企画にたずさわっておられる。日本の美術界の動向にうといので、風評もたまに必要?

2018.5.23
 雨。昨日ほぼ完成した絵の背景の色を変更してみる。いじって悪くなる場合があるが、そのいじり方に勇気があるかないかが決め手。臆病で終るか豪胆で行くか、絵は常に試練の淵に立たされている。と考えると一点一点が修業の場である。

夜、朝日新聞の書評委員会へ。特に書きたいと思う本はない。読んでみたい本と書いてみたい本は必ずしも一致しない。新しい委員が大半だけれど、難聴のために誰かと親しく話すということはあまりない。美術評論家の椹木野衣さんとは共通の話題があるので話す機会は他の人より多いが、難聴が激しいために、話の1/3か1/4位しか理解できない。委員会が終ったあと2階のアラスカで二次会があるが、会話ができないのでほとんど不参加。

2018.5.24
 昨夜、書評委員会の帰路、朝からの雨で気温も低く、なんとなく風邪の兆候があったが、今朝、実体化する。仕事を中断して葛根湯や栄養剤を飲んだり、熱いうどんを食べたりして、やっと風邪を退散させるのに成功。
片岡秀太郎さん、浅田彰さんと(撮影・徳永明美)

2018.5.25
 明日から開催の「画家の肖像」展の記者会見とオープニングセレモニーのために妻、徳永らと神戸へ。記者会見にはいつもより積極的な質問多い。やはり150号の巨大自画像に対する質問多し。大きく描くことによって、ただ「描く」ことのみに集中でき、そのために考える余地を与えないほど早く描き上げる。肉体的な運動に全てをゆだねることで、自分をよく見せたいとか、醜く描くというような主観意識は後退して、ただストロークと一体になることで自我は消滅する。またなぜ?自画像という質問に対しては、メディア化された複数の自己は、すでに私意識から離れた単なる対象化された第三者である。だから私でありながら私ではないペラペラの複製品の模写に過ぎない。

記者会見のあとオープニングセレモニー。毎回のように出席していただく常連の浅田彰さん、安來正博さん(国立国際美術館)、45年来の交遊の友人、歌舞伎俳優の女形の重鎮片岡秀太郎さん、福武美津子さん(豊島横尾館)、今展のカタログ執筆者富田章さん(東京ステーションギャラリー館長)ら出席。秀太郎さんの紹介時には大向こうから「松島屋!」の声も掛かり、いつもとは違う雰囲気。恒例の兵庫県知事井戸敏三さんの献歌には歌の中にヨコオタダノリの隠し文字はなかった。

夜は東天閣で左記の人達を囲んだ夕食会。秀太郎さんの話が面白いのか、常に座が笑いで盛り上がるけれど、難聴のぼくにはサッパリ笑えない。あとで妻に何があんなに笑いを誘うのか? と聞くと「例えば口上の時、それぞれのエピソードなど個性的な話をされるのに坂田藤十郎さんだけはいつも紙を見て同んなじ言葉を述べられるだけ、みたいな話とか」の歌舞伎界のエピソードが面白かったそーだ。「まあ老齢になると横着になって手抜きをしはるんですねえ」

2018.5.26
 午前中、兵庫県立美術館の「小磯良平と吉原治良」展を観る。小磯にはエロティシズムがない。吉原の具象時代の作品は素晴しいが、抽象に転向してからは迷いと苦悩だけが伝わってきて悟れなかった禅の修行者の姿を見るよう。

昼、うなぎ屋へ。足が痛く、靴下のまま歩いているので、お店の女性店員が自分の履いている靴を脱いでプレゼントしてくれはる。

2日間留守だったので、おでんはくっついたまま離れない。猫の寂しい感情も人間と同じだ。

2018.5.27
 どうして、こうも偶然に磯〓憲一郎さんと道でバッタリ会うのだろう。そりゃ二人共外出するからだ、と言えばそれまでだけれど、それにしても異常に二人の遭遇率は高い。会う度に笑っちゃう。
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