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2018年6月12日

図書館探訪問(1) 麻布学園の巻

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今年創立一二三周年を迎え、東京大学合格者数ランキングには、五〇年以上トップ10入りをつづける麻布学園(中学高校一貫校)は、そのユニークな教育方針でも知られる。「自主的創造的な学習活動」が校是となっており、そのため校則もなく、服装や髪型も含めて、学園生活一般は、生徒の自主判断に任せられている。そうした校風のひとつの象徴が、一九九五年に建設された「創立一〇〇周年記念館」の二階・三階フロアを占める図書館である。新設された図書館に設立当初から務める、麻布学園司書教諭・袖﨑俊敬さんに、館内を案内してもらいながら、お話をうかがった。

二階フロア(三階へ昇る階段から)
明るい日差しが差し込む図書館は、全校生徒約一八〇〇人という学校規模から考えると、質量ともに充実した、全国的に見てもトップクラスの学校図書館である。蔵書数は現在約七万八〇〇〇冊、一日の平均利用者は述べ四〇〇人を越えることもあるという(単純計算で約四人にひとりが、日々この場所を訪れていることになる)。「放課後や休み時間だけではなく、うちの学校には自習の時間もありますから、そういう時間に本を読みにきたり、コンピュータを使ったり、あるいはDVDで映画を見るために利用する生徒もいます」と袖﨑さん。貸出し冊数は一週間で三冊の制限があるが、多いクラスでは、年間の貸出しが六〇〇冊ほどに上るという。ただし例外もあり、袖﨑さんは次のエピソードを紹介してくれた。
新着図書(取材時の二月中旬)
「以前、一年で一二三〇冊借りた生徒がいました。図書委員をやっていた子で、いわば〈職権乱用〉をして、毎日のように十冊ぐらい借りていた。いつもきちんと返却していたということもあって、そのまま見逃していました(笑)」。

この点も〈麻布流〉と言えるのかもしれない。そもそも麻布学園の図書館は「図書館部」によって運営されている。日常の業務は、袖﨑さんも含めて司書教諭二名、非常勤職員二名が行ない、各教科担当からそれぞれ一名ずつ選任された七名と、司書教諭を合わせた九名で図書館部は組織される。教科担当を通して教員から推薦図書があげられ、生徒からも様々なリクエストが寄せられるので、生徒と教員すべてが図書館の運営に関わっていると言ってもいい。図書館部では週一回の定例会議があり、そこで選書や毎年のブックフェアーのテーマ等が決定される。では、年間およそ二〇〇〇冊購入される新着図書は、どのようにして決定されるのだろうか――。
中学の卒業論文対象作品コーナー(一部)
「基本は、まず我々司書教諭が、新聞の書評や『読書人』あるいは『図書』『ちくま』といった出版社のPR誌、TRCのツールアイやHonyaClubなどで得られる情報に加えて、書店に足を運んだりしながら、二週間に一回、選書リストを作成します。それを図書部員全員に渡して意見をもらう。特に異論がなければ、リストに沿って購入されるという流れです。隔週で四〇~一〇〇冊ぐらい選書します。生徒の知的好奇心が高いこともあって、多少背伸びしたものを入れても、読む子がいます。ただ、なるべく読みやすく、わかりやすい本を選ぶようには、個人的に気を遣っています。難しいのはバランスですね。たとえば人文系に偏らないようにとか。また、年に一冊しか借りられない本でも、重要な本があります。そういう書籍に関しては、教科の担当者から教員推薦で上がってきたり、生徒からのリクエストに応えたりして購入することもあります」。

最近では、以下の本が、生徒からのリクエストによって蔵書に組み入れられた。R・バートレット編『図解ヨーロッパ中世文化史百科』、村井修撮影『時空 TIME AND LIFE』、J・ラカン『エクリ』。少し遡ると、『吉本隆明〈未収録〉講演集』全十二巻といったシリーズものも、生徒の強い要望によって購入された。
家庭科の課題図書コーナー
麻布学園図書館の、もう一つの大きな特色は、独自編集の発行物である。毎月出される「図書館通信・衣錦尚褧」、毎年刊行の「図書館だより」、そして昨年リニューアルした「卒業までに読んでおきたい本のリスト」(すべて非売品)、これらすべてが図書館部の編集によって編まれている(因みに「衣錦尚褧」とは、美しい絹織物(錦)の上に薄い内がけを着て、錦を見せないこと。「奥ゆかしさ」を意味するが、延いては、知識や学問を身に付けてもそれをひけらかさないという、衒学を戒める言葉として考えられている)。この図書館通信には、館内で実施されるテーマ展示を含めて、図書館からのお知らせとお願い、それに加えて新着図書リストが付される。
「図書館だより」は、毎年行われるブックフェアーにあわせて発行され、昨年度までに六〇号が発刊されている。様々なテーマが設定され、近年では「AI」「SF」「学問への扉」「図書館」といったテーマのもとに、各教科の担当教員がお薦めの本を短評入りで紹介する。この冊子で紹介された書籍は、期間中館内のブックフェアーのコーナーにまとめて配架される。「卒業までに読んでおきたい本のリスト」も、同様に各教科担当教員が執筆する。「リスト」といっても、全九八頁の立派な造りで、各書籍にはそれぞれ推薦理由が付され、古典から新刊本まで、内容も幅広い分野に及んでいる。山本義隆『磁力と重力の発見』といった本が挙げられているのも興味深い。「読みやすさよりも、学問の本質を学べるような本、あるいは、これはちょっと難しいかもしれないけれど、背伸びして読んでごらんなさいと挑発する感じで、教科の担当者は選んでいるのではないかと思います」(袖﨑)。
それでは、袖﨑さんは、実際に生徒と接しながら、どのような点に気を遣って、図書館という〈場〉を作っているのだろうか。最後に問いかけてみた。
「一番には、肩肘張らずに入って来られる場としてあって欲しいということです。そして「図書館にいけば、きっと何か面白いものがある」くらいに感じてもらえれば何よりだと思っています。いろんな情報にアクセスできる場所であり、それぞれ自分の興味に合ったかたちで利用してくれればいい。受験生向けに開く学校説明会では、この図書館に感銘を受けて、受験を決めた子が少なからずいるようです。入学後毎日来館する子もいるし、「下校時刻が六時なのに、どうして五時半で閉まるんですか、もっと開けておいてください」と言ってくる生徒もいました。そういう話を聞いていると、居心地はいいということなのでしょう。
(おわり)

2018年6月8日 新聞掲載(第3242号)
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