イエスの革命と現代の危機 反時代的インマヌエル宣言 書評|柴田 秀(南窓社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月9日 / 新聞掲載日:2018年6月8日(第3242号)

荒れ野に叫ぶ声 
近代の堕落の帰結である「現代の危機」を総体的に超克する

イエスの革命と現代の危機 反時代的インマヌエル宣言
著 者:柴田 秀
出版社:南窓社
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著者渾身の集大成で一千ページの大著である。表題どおり「イエスの革命」を視座に「現代の危機」をあぶり出し、「インマヌエル」(神我らとともにあり)によって処方箋を提示しようという「反時代的な」営みであるといえよう。

構成はプロローグ「反時代的インマヌエル宣言」から、一章でカント以降の自我論の系譜を描く。二~三章は現代世界の危機=エゴイズム的非主体性の指摘と考察になる。問題を日欧米各国と広くまた具体的に取り上げるが、同時にエゴの克服のヒントをつむぎ出している。四~五章はイエスの革命の視点から仏教を考察、東西思想の止場・総合を語る。これを受けて六章インマヌエル哲学のジェンダー論(フェミニズム批判から新しい愛の世界へ)、七章歴史観(唯物史観に代わる見方を提起、独自の世界共和国へ)から八章新しい形而上学そのものの規定(一神教即多神教として天道思想の総合を図る)へと展開する。エピローグでは「新しい世界・インマヌエルと全人類幸福の実現に向けて」提言をしている。

著者によれば現代の危機は普遍的であり、生態的、政経的、文化社会的だけでなく、根本的には人間性そのものにある。これら危機は近代の堕落の帰結とみられる。近代とは人間主義、科学技術、資本主義として捉えられ、本書は人間主義の克服の観点を中心にこれらを総体的に超克しようとする。危機は人間の全面的崩落性(ダス・マン)から捉えられ、その描写は若者論から各国のファッシズム現象(安倍政権からトランプ米大統領の出現)まで広い。読者は著者の思考の強さと積み重ねられたものの厚みに深い衝撃を受けるはずである。個々の描写では、例えばフェミニズムに関して著者自身が予想するように、その理解や立ち位置に異論がありえよう。しかし、著者は性差別の問題を深く考えており、六章ではトッド、ユヴァルを援用、ヘーゲルを包摂して正面からこれに答えている。本書には批判のための批判はない。各分野の当事者、研究者の参戦を期待したい。

本書の基本観点であるイエスの革命とは、エゴイズムと反対の生き方である。イエスはユダヤ教という伝統宗教ではなく、かれ一個の足下に来ている神(インマヌエル)の御心を直接に生きた。これがイエスの宗教革命、実存革命である。著者によれば西洋キリスト教はパウロの一面を引き継いでイエスの宗教を葬ってしまった。それを二十世紀の神学、新約学が発掘した。本書ではエゴ克服のイエスの革命の観点が仏教へも展開され、また聖書に立ち戻って確認される。親鸞・道元が引かれ「神の御心のまま即あるがまま」が考察されるが、釈迦にはまだ永遠・無限・絶対的なものの自覚が弱いとしてむしろ大乗にイエスの革命を見ている点が面白い。最近の仏教研究から支持されうるかもしれない(平岡聡『大乗経典の誕生』筑摩選書・二〇一五年)。大いに議論が起きてほしい。

現代の底なしの危機に対して著者が処方したのはイエスの革命であり、神と人との直接無媒介の関わり(インマヌエル)を考察する新たな形而上学(逆説一元論)の樹立である。わたしたちは各自の足下に思いをいたし、そこに永遠・無限・絶対の神を見いだし、直接そこから生きること、そこにエゴイズム・ニヒリズム克服の、さらには堕落した宗教や科学万能主義、強欲資本主義を超えた新しい愛の世界と全人類幸福実現への鍵があるという。幸福論も興味深いが、イエスの革命が著者に匿名の宗教者を発見させていることは感銘深い。20世紀の社会革命熱がさめた現在、読者は著者の提言を無下に退けられないはずである。

著者の見解の背景には故滝沢克己の思想がある。故秋月龍珉は滝沢を大拙・西田のザッヘを受け継ぎ、神人(インマヌエル)の不可分・不可同・不可逆という規定によって即非の大拙・絶対矛盾的自己同一の西田に一歩を進めた思想家であると評価した。著者も滝沢を西田、ハイデッガーを超えてイエスの革命に接続する存在として思想史の最先端に位置づけている(プロローグ)。とはいえエゴイズム等の批判語は著者に固有であり、氏は本書二カ所で滝沢に批判を投げかけているが、評者には滝沢最晩年の純粋神人学という試みを著者がどう解釈されるか気になった。

大半が書き下ろしだという本書公開への心身の格闘(後書き)はまさに現代の危機との対決の産物である。深く敬意を表したい。
この記事の中でご紹介した本
イエスの革命と現代の危機  反時代的インマヌエル宣言/南窓社
イエスの革命と現代の危機 反時代的インマヌエル宣言
著 者:柴田 秀
出版社:南窓社
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