出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと 書評|花田 菜々子(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2018年6月9日

本を媒介にした壮大なフィールドワーク記

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと
著 者:花田 菜々子
出版社:河出書房新社
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本書の内容は雄弁なタイトルそのままだ。ヴィレッジ・ヴァンガードに12年間勤め、現在はブックコンシェルジュとして活躍する女性著者の出会い系サイトでの体験記がベースである。ただし、出会い系といっても、著者が使っていたサイトは、知らない人と30分だけ会って話してみるというサーヴィスが売り。著者は30分(もしくはそれ以上)相手と話した感触で、1万冊を超える記憶のデータベースの中から、おすすめの本を探り当てて薦めるのだ。

著者が対面するのは、ITの仕事をするノマド系の男性、フリーランスの映像作家、コーチングを生業とする女性、恋人のDVから逃れてきた女子等々。彼ら/彼女らの時に壮絶で時に笑える悲喜こもごもの体験談を聞きながら、著者はその人にマッチする本を処方箋のように提供してゆく。この人にはこの本、というセレクトがどんぴしゃで面白いし、出てくる書名がいちいち気になって仕方ない(巻末にリスト一覧があるのが有難い)。あからさまにセックス目的で迫ってくる男性に樋口毅宏『日本のセックス』を薦めるくだりなど、思わず爆笑してしまった。

本を媒介にした壮大なフィールドワーク記とも言える本書だが、次々に未知の相手を捌いてゆく様は、ほとんど修行の領域。対面相手が50人を超す頃には〈「知らない人と話す」ということのハードルがどんどん下がって、ほぼゼロになっていた〉というから驚きだ。今修行と書いたが、苦行をこなしているような悲壮感はまるでなく、むしろ著者が明るく前向きに出会いとコミュニケーションを楽しんでいるのが特徴的。出会った男性から妄想ポルノ小説を送り付けられるというセクハラ体験などかなり際どいこともあるのだが、最終的には一期一会の楽しさを謳歌する姿勢が一貫して感じられるのだ。

そんな中にあって、ひたすらヘヴィでシリアスなあとがきが目を惹く。ここで、母を亡くしたばかりだという女性が著者の勤務する書店を訪れ、本を薦めてほしいと申し出る。喪失感に支配された女性に、著者は益田ミリ『今日の人生』、山崎ナオコーラ『美しい距離』、上野顕太郎『さよならもいわずに』を薦める。女性に「早く元気になってください」というのはある意味無責任であり簡単だが、本を介してなら実のあるコミュニケーションができる。本を媒介にして他者との繋がりを感じるという体験は評者にもあるが、本書の著者ほどその効用/効能を知悉している人はいない。そう思える本である。
この記事の中でご紹介した本
出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと/河出書房新社
出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと
著 者:花田 菜々子
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2018年6月8日 新聞掲載(第3242号)
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