パリ、五月革命の残光 ―大学改革と抵抗運動―  (第一回/全四回) 西山 雄二|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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パリ、五月革命の残光 ―大学改革と抵抗運動―
更新日:2018年6月19日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

パリ、五月革命の残光 ―大学改革と抵抗運動―
 (第一回/全四回) 西山 雄二

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「彼らは六八年五月を記念するが、われわれは再開させる」――二〇一八年三月二二日、全国統一デモが開かれ、国鉄職員、学校教職員、大学生・高校生ら三二―四〇万人が参加した。ちょうど五〇年前の同日、ダニエル・コーン=ベンディッドらがヴェトナム反戦行動の一環としてパリ大学ナンテール分校の会議室を占拠し、それが五月革命の発端となった。昨年フランスでは史上最年少のマクロン大統領が誕生したが、彼が続々と推進する労働法改正、国鉄改革、大学入試改革などに対して抗議の声が上がっている。
封鎖されたパリ・ナンテール西大学でのポスター。68年5月の写真やポスター・デザインが活用されている(写真提供:松葉類)
フランスの高等教育制度に関して言えば、問題が深刻化していることは明白だ。まず、大学入学者数が増加し、定員数を超過している。近年の家族政策の成功によるベビーブームで若者人口が増加。大学入学資格バカロレアは合格率が九割ほどになり、一八歳世代に占める保持者は八割に達している。入学定員を増やしてはいるが追いつかず、二〇一七年度は新学期になっても八七〇〇〇人に登録結果が通知されなかった。

また、大学一年次の落第率の高さも顕著だ。バカロレアを取得すれば選抜無しで学籍登録できる開放入学制をとっているが、初年次でつまづく学生が多い。一―二年間で一年次を修了する学生は五割ほどで、一年次に断念する割合は三割ほどである。高校と大学の連携による進路指導が不十分で、往々にしてミスマッチが起こっている。
今年一月、新制度「パルクールシュップ」施行され、大学振り分け制度が一新された。以前は志願者は大学・学部を二四まで希望順位付きで登録し、アルゴリズム計算で振り分けられていた。志願者が多い学科には、居住地、家庭の状況、希望順位で選別され、高校の成績やバカロレア試験の点数は問われなかった。新制度では、大学・学部を一〇まで希望順位なしでエントリーした上で、高校の成績や内申を考慮して選抜がおこなわれる。バカロレアがあれば誰でも入学の権利を得られた平等な状態から、専門化された選抜式に変わるのだ。
二月、大学改革に関する「学生の進路指導と成功に関する法」が国民議会で可決されてから、大学生らは校舎を封鎖し、座り込みデモをし、授業や試験をボイコットした。四月初旬にはフランスの大学七〇校のうち約一五の大学が封鎖される事態となった。四月一二日、マクロン大統領はテレビ・インタヴューで、大学占拠を批判。「多くの大学の占拠は学生ではなく、プロの活動家の仕業」「試験に向けてよく復習をした方がいい。甘っちょろい試験はないから」と言い放った。二〇日から学長の指令による機動隊の介入で封鎖は次々と解除されていく。

六八年五月では権威の殿堂たるソルボンヌ大学が占拠され、労働者をはじめとする一般市民にも解放された。キャンパス内は誰もが言論風発できる自由な空間となり、壁には詩的な表現が書き記されたが、こうした言葉の解放が五月革命の最大の特徴となった。今年の大学占拠は改革阻止の行動にとどまっており、異議申し立ての波が広がっているとは言えない。また、SNSが発達して、各人の言葉が十全に解放された現在、占拠したキャンパスにスプレーで落書きをする意味は何だろうか。フランス全国学生協同連盟(FAGE)による調査では七二%が封鎖に、六八%が授業ボイコットに反対しており、大学改革法案についても六割ほどが賛成と答えている。多数の学生は封鎖に納得しておらず、民主的討論など他の手段を求めている。

高等教育改革は不可避だが、今回の法案によって教育機会の不平等化、授業料の値上げが懸念されている。六八年末の大学改革ではパリ郊外にヴァンセンヌ実験大学センターが開設され、バカロレア資格をもたない労働者や単位互換資格のない外国人も自由に授業に参加した。今回、教育の平等から選別の原理への移行は決定的な転回である。ヴァンセンヌの精神を継ぐパリ第八大学では、五月革命の残光を継承するかのように、抗議の封鎖が根強く続けられている。(にしやま・ゆうじ=首都大学東京准教授・フランス現代思想/パリ在住)
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