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八重山暮らし
更新日:2018年6月19日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

八重山暮らし(45)

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大谷用次さん九七歳。集落を自転車で走る。竹富島から西表島大富に入植し、密林を切り開き村建てに尽くした。
(撮影=大森一也)
白砂を求めて



少年は集落から駆け通しで島の西の浜へ向かった。

アダンやクバが生い茂る小さな杜を過ぎ、枝葉のトンネルを一目散に抜けて行く。真白に輝く砂浜へ飛び出す。空と海の澄み切った青がひとつに溶け合う。光の渦のなかで深く息を吸う。

足もとの波に洗われた白砂を少年は両手にすくう。陽に照らされた砂粒が濡れた膝にも丸くまぶされる。少年は弾けるように立ち上がり、つよく首を振る。もっと、もっと細やかな砂が欲しい。背筋を反らし、白い砂を清らかな波間に放った。

人の踏み跡ひとつない砂浜を華奢な身体が滑るように走る。駆ける。無垢なる白砂を求めて…。
「子どもの頃、母さんに頼まれてピーヌカン(火の神)の香炉に入れる砂を海岸まで取りに行ったよ。足跡がない浜の、きれいな砂を、と厳しく言われてね。一生懸命に探して走り回ったさぁ」

母の笑顔が、ただ見たくて…。

言い付けを難儀とは露ほども思うことのなかった、あの時。大鍋の下でちろちろと揺らめく炎。香炉に盛られた純白の砂。台所で立ち働く母の手のひらの温もり…。百歳を迎える齢になっても、生まれ島の日々が克明に甦る。

男は、はにかみの笑みを浮かべる。家族と共につつがなく暮らせればと祈るように歩んできた…。遠い眼差しを香炉に向けた。

(やすもと・ちか=文筆業)
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