対談=武田砂鉄×貴戸理恵 いいじゃない!!豊かなだらだらコミュニケーション 『日本の気配』(晶文社)、『「コミュ障」の社会学』(青土社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月15日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

対談=武田砂鉄×貴戸理恵
いいじゃない!!豊かなだらだらコミュニケーション
『日本の気配』(晶文社)、『「コミュ障」の社会学』(青土社)刊行を機に

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日本の気配(武田 砂鉄)晶文社
日本の気配
武田 砂鉄
晶文社
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梅雨入り。もやもやじめじめ爽快感のない季節だ。が、国政も日本社会も、四月も五月も変わりなくもやもやし続けていた。その蔓延する気持ち悪い「気配」を、政治状況、社会的事件、流行現象からあぶり出すのは、ライターの武田砂鉄氏『日本の気配』(晶文社)。
また、不登校やひきこもりと長年伴走しながら、「空気を読むのが苦手でも、人とつながって生きていける」というメッセージを送るのは、社会学者の貴戸理恵氏『「コミュ障」の社会学』(青土社)。
二冊の刊行を機に、著者の二人に、日本のコミュニケーションの現状について、ファミレス、SNS、テレビの世界、教育現場、政界……と様々な角度から語っていただいた。 (編集部)
第1回
=空気を管理する社会 弱者を救わない社会=

武田 砂鉄氏
武田 
 貴戸さんの『「コミュ障」の社会学』と、拙著『日本の気配』は同時期に刊行され、アプローチは異なりますが、現在の日本社会におけるコミュニケーションに対する問題意識に、通じるところがあると感じました。

原稿をまとめつつ、今の日本社会に感じる「なんか気持ち悪い」感覚の元は何か、とずっと考えてきました。刊行後、財務省の福田前財務事務次官のセクハラ発言、それをかばい続ける麻生太郎大臣の暴言、国民が忘れるまでいい加減な回避を続けるモリカケ問題の答弁など、だらしない言説が沸き続けている。もはや政治的なプロセスや、国際社会の位置づけ云々を議論する以前の問題です。政治を動かしている人間自身を疑わなければならないし、その人間が作る空気をそのまま受け止めてはいけない。

昨年、「忖度」が流行語大賞になりましたが、その先駆けと言いたくなる発言が二〇〇一年にあった。NHK ETV特集「問われる戦時性暴力」に対し、安倍晋三がNHK幹部に、「ただでは済まないぞ。勘繰れ」と言ったと。このことは、NHKのプロデューサーだった永田浩三さんが『NHKと政治権力』に書いています。現在の忖度社会を作り上げた張本人は、安倍晋三だったのかもしれません。
貴戸 
 十五年以上前からですか。「忖度」は今、社会の至るところに蔓延っていますね。日大アメフト部の問題でも、明示的に指示を与えるコーチに対し、監督は言葉にせずとも、周囲が気配を忖度して動く。明示しなくてもよいという特権が「権力」なのです。

『日本の気配』の冒頭には、「政治を動かす面々は、もはや世の中の「空気」を怖がらなくなった」とありました。権力者は空気を読むのではなく、気配を作り管理するようになった、と。確かに、最近の政治家の答弁を見ていると、対話のテーブルにつかず、「お分かりですよね」という気配で、不都合な真実をうやむやにしていく。「またか」と思いながら、そのことに私たちは馴らされている。
武田 
 柳瀬唯夫元首相秘書官が、加計学園関係者と首相の面会を否定し続けた。ひとまず彼の言い分を信じるとしましょう。となると、この国で権力を持つ人たちは、今や「空気読めよ」「勘繰れよ」という言葉さえ発さずに、全体を統括できているということになります。
貴戸 
 少なくとも二十年ぐらい前までは権力者の側も、世論を意識してはいた。でも社会が多層化して、有力な支持層が分からなくなったとき、もうこちらからは空気読みません。作らせていただきます、となったのでしょう。
武田 
 そして現在のような「気配」を作り上げるのに一役買ってしまっているのがメディアです。

麻生大臣による、財務事務次官セクハラ事件以降の暴言の数々を、読売新聞は「『麻生節』は止まらない」という見出しで報道しました。あってはならない発言を麻生太郎という「キャラ」として扱ってしまう。メディアが、「ああいう人だからしょうがない」と為政者たちの作る空気を追認してしまう。差別を含む発言まで、キャラ化することで不問に付してしまっている。権力者が醸し出し、メディアが固める気配に、国民も従順になっていく。

共同通信の世論調査で、柳瀬元首相秘書官の国会答弁に対し「納得できない」が七五・五%に達した。しかし麻生太郎の複数の暴言を受けて、「辞任すべき」は四九・一%。辞任に値しないとする数値と拮抗していたのです。しかも、より若い世代が、麻生は辞任しなくていい、と考えているというデータが出ています。
貴戸 
 なぜだとお考えですか。
武田 
 「若者」という括りには慎重になりたいですが、物事に対して冷静でいようとする若者が多い気はします。暴言はあったけど、麻生さんは長年国政に尽力しているし、北朝鮮情勢とか優先すべきことがあるでしょ……みたいな。その冷静さを「公平な態度」だと思っているのではないか。自分の国で起きていることなのに、どこか他人事として処理している、それは冷静ではなく、冷酷です。

セクハラ問題も、日大アメフト部の事件も、強者の管理する空気によって、確実に傷ついた人がいる。経緯が明るみになってもなお、加害者は罪を認めない。明らかに立場の弱い人が潰されていく様を放置する、この国の気持ち悪さは何なのかと。

自分は、個人としての意見を慎むなんてズルいし、「ムカつくものにムカつくと言うのを忘れたくない」と常に思っています。そういうことを書くと、なぜあなたは感情を抑えないのかと諭されます。でも、こちらとしては、なぜあなたは抑えるんですか、と言いたくなる。
貴戸 
 相変わらず日大は、学長が表に出てこないし、福田前財務事務次官は罪を認めていませんよね。それを許しているのは、私たちなのかもしれないと。
武田 
 二〇一一年以降、原発再稼働、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪……政府の横暴な動きに、その都度、多くの国民が怒り、デモなどで連帯しながらムーブメントを起こしてきた。そうした働きかけによって、政権が倒れるのではないか、政府案が破棄されるのではないかとの気運が高まるも、国会では慣性的に物事が進められ、成果を得ぬまま抗議が萎んでしまう。

それが政権側にはある種の成功体験になっていて、「よし、いつものあの流れで行こう」と画策する。セクハラ問題にしろ、モリカケ問題にしろ、こちらの怒りに答えずに、人を食った発言を並べて、時が経つのを待てばいいと居直っている。この国の空気を管轄し、異論が膨らみすぎないように調整して封じ込められると高をくくっている。
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この記事の中でご紹介した本
「コミュ障」の社会学/青土社
「コミュ障」の社会学
著 者:貴戸 理恵
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
日本の気配/晶文社
日本の気配
著 者:武田 砂鉄
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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