対談=武田砂鉄×貴戸理恵 いいじゃない!!豊かなだらだらコミュニケーション 『日本の気配』(晶文社)、『「コミュ障」の社会学』(青土社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月15日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

対談=武田砂鉄×貴戸理恵
いいじゃない!!豊かなだらだらコミュニケーション
『日本の気配』(晶文社)、『「コミュ障」の社会学』(青土社)刊行を機に

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第3回
=どちらがより真正な当事者か競争=

武田 
 福田前事務次官のセクハラ事件が起こった後、「ワイドナショー」(フジテレビ系)で、ダウンタウンの松本人志が「私の見解としましては、『セクハラ6:パワハラ3:ハニトラ1』でどうですか。このあたりで皆さん手を打たないですか」と言った。愕然とします。でもそこで、スタジオにいる面々の多くはニヤけてしまう。その番組では以前、AKB48のメンバーが「セクハラなんて受けたことない」と言っていた。言わせていただければ、彼女らを取り巻く構造がそもそもハラスメントです。金を払って得た投票権の投票が多い順に、活躍の場が与えられる。そのために、献身的な握手などなどを強いられる。体調を崩して辞めていくメンバーがいる。そんな彼女たちが「ハラスメントなんてない」と言い、芸能界のドンが「ハニトラ1や!」と凄む。これがテレビの空気だから、福田の言動に怒り続ける人が、いつまでも怒っている怖い人になってしまう。
貴戸 
 cakesの連載「ワダアキ考」で、壇蜜について書いていましたよね。壇蜜が、自分は「えっちなお姉さん」という立場で仕事をしているから、セクハラとは言えない、と言っている。これを当事者がいいと言うのだからいいだろう、と流してはいけないと。重要な指摘です。

リスクが高いんですよね。セクハラ事案に関して、当事者が声を上げるというのは。AKBにしろ壇蜜にしろ、女性性に対して、生きる場所を与えられていることを、本人が分かりすぎるぐらい分かっていて、それを利用している自覚もある。そういう状況ならなおさらで、当事者として、セクハラを受けています、とはなかなか言えない。

でもそれで、当事者がいいと言っているから、で終わらせずに、一枚皮を剥ぐようにして、その下にある構造まで見ようとすることが必要だと、武田さんの文章を読んで改めて思ったんです。構造を考える人は、テレビなどでの個々人の発言や事案をスルーしがち。そして、個々の発言に注目している人は、構造を見るところまで至らない。武田さんは、フラットに両方を見ていますね。一般の社会と研究者の世界と両方を見て、両方に伝わるような言葉で現象を暴いていく。大事なお仕事だと思います。そしてそれは、私にとっての課題でもあると思っています。
武田 
 貴戸さんは、「当事者」について長年、研究・分析を続けておられますが、例えば、死刑制度に賛成か反対か、という議論が起こったとき、必ず「自分の子どもが殺されても、死刑反対と言えるのか」という理屈が出てくる。社会問題の議論では、当事者か当事者ではないかという前提を、ナイフのように突きつけてくるケースが増えているのではないですか。
貴戸 
 そうですね。そしてそれは、どちらがより真正な当事者か競争、を招いてしまう。当事者面するな、世の中にはもっと悲惨な目に遭っている人がいるんだ、というような議論は、不毛で、危険です。
武田 
 伊藤詩織さんが自分の体験を告発したときにも、SNS上では「私も酔った勢いでやっちゃったことあるし……」と雑に当事者が持ち出されていた。この「私も」は、酔っ払って男に体を許す私と、伊藤詩織さんの告発を、均等に置き、彼女もそうなんじゃないの? とレイプ犯罪を追究する方向ではなく、告発をうやむやに丸めこんでいく。告発した当事者が二次被害的に傷つき、それで安堵するのは、行為に及んだとされる側だったりするわけです。不健全な構造ですよね。

そうやって、軽はずみな書き込みで場を荒らすことによっても、この国の差別の土壌は温められていきます。しかし、一人ひとりに説教して回って、一つひとつ芽を摘んでいけるかどうかと言えば……。
貴戸 
 きりがないですよね。性的に奔放であることと、レイプは許されないということは両立するのに、両立しないかのように捉えていくのは奇妙な論理です。その枠組みの歪みを見極めて、正していく必要があるのではないでしょうか。
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この記事の中でご紹介した本
「コミュ障」の社会学/青土社
「コミュ障」の社会学
著 者:貴戸 理恵
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
日本の気配/晶文社
日本の気配
著 者:武田 砂鉄
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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