『文芸翻訳教室』(研究社)刊行 越前敏弥氏インタビュー|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

『文芸翻訳教室』(研究社)刊行 越前敏弥氏インタビュー

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越前 敏弥氏

越前 敏弥(えちぜん・としや)

文芸翻訳家。東大卒。著書に『翻訳百景』『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文』など。訳書にダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』『オリジン』、エラリー・クイーン『Xの悲劇』、ジェフリー・ディーヴァー『死の教訓』スティーヴン・ローリー『おやすみ、リリー』など。
第1回
全体としての絵が同じ になるのが理想の翻訳

文芸翻訳教室(越前 敏弥)研究社
文芸翻訳教室
越前 敏弥
研究社
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――今回のご著書のタイトルでは、単に「翻訳」ではなく「文芸翻訳」と銘打たれていますね。
越前
 文芸翻訳はまず技術として、実務翻訳や映像翻訳などと明らかに違うところがあります。もちろん共通する部分もありますが、おそらくこの本に書いている半分ぐらいはノウハウがそれらと違いますので、あえて「文芸」という言葉を入れたかったのがひとつ。それと「おわりに」でも書いていますけれども、僕は伊藤和夫先生に直接に教わりましたし、ずっと先生のやり方を手本に生徒たちに教えてきたこともありますから、研究社から本を出していただくのであれば、伊藤先生の『英文解釈教室』という研究社の大ベストセラーと同じ六文字に揃えて似たタイトルにしてもらいたかったのが二点目。それからこれも本に書きましたが、いま文芸不要論だとか人文不要論だとか言われていますけれども、そんなことはないんだと少しでも主張したい意味も込めてあえて付けたというその三点です。この本は文芸を最終的な専門とする人のための本ではありますが、もうちょっと広い意味で言葉を扱っていく仕事、特に外国語と日本語の両方を扱っていく人にとって役に立つことをそれなりに書けたと思っています。

文芸作品を訳すには、やはり文学が読めなければどうしようもない。それは実務翻訳において、それぞれの専門的なことがある程度分からなければどうしようもないのと同じことです。ですからこの本では翻訳以前に深く読むところから説き起こした部分もあります。語学をやる上での最終目標は直読、直解だなどと言われますが、その前に深いところで本当に読み取れているのかどうか。最終的に翻訳をやる人じゃなくても、深く読み取ろうというような意志がある人にとっては役に立つ本だと思っています。また、僕は外国語を学ぶ目的の半分ぐらいは、自分の日本語力を客観的に見て母国語を鍛えていくためだと思っているので、最終的に外国語の仕事をしない人であったとしても、外国語を通してもう一回日本語に帰ってくる作業として有効だと思っています。

――文芸翻訳の苦労というのは、やはりどのような日本語表現にするのかといった点も大きいのでしょうか。
越前
 いろいろありますが、大雑把に英語と格闘している時間と日本語と格闘している時間に分けたとしたら、日本語と格闘している時間のほうがずっと長いと思います。変な日本語になっているときは読み違えていることも多いんですね。あるいは読み違えていないにしても浅くしか読めてないということはずいぶんあります。翻訳教室の生徒の訳を見ても、何を言っているのか分からないときはだいたい誤訳しています。その逆に僕の翻訳書の担当編集者で優れた人がいて、辻褄が合っていないとか、ちょっと自信なさげな日本語だとか、英語を読まずに誤訳を指摘してきされることがたまにあります。

――その意味で日本語を読み解き表現する力が非常に大事なことのひとつだと。
越前
 それはほぼ比例するものであるといつも言っています。日本語の運用能力が低い人が英語の読解力が高いわけがない。日本語の句読点の打ち方が変な人は絶対に英語のカンマの正しい読み方も分かってない(笑)。読み方が分かっていなければ書き方ももちろん分かってないと経験的には思います。それと文芸翻訳においては、そもそも原語と日本語が一対一に対応するものではなくて、全体としての絵が同じになるのを理想とすべきだと思っています。それを世の中の人は意訳と言うかもしれないけど、ぼくはそれが本当の直訳だと思っているんですね。もちろん逐語訳が理想の場合もありますが、通常は節の単位、文の単位、あるいは段落の単位で最終的に見えているものが同じであることを目指すわけです。僕が編集した東江一紀さんの『ねみみにみみず』のあとがきで、東江さんの翻訳について「さりげなく森全体を描いているのに、一本一本の木の枝葉まで目に浮かぶ絵画のような訳文」と書きましたが、一枚一枚の葉は違うかもしれないけれども、ちょっと離れて見た全体の景色としては完璧に一致しているといったものが目指すべき翻訳だと思います。
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この記事の中でご紹介した本
文芸翻訳教室/研究社
文芸翻訳教室
著 者:越前 敏弥
出版社:研究社
以下のオンライン書店でご購入できます
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