動く墓  沖縄の都市移住者と祖先祭祀 書評|越智 郁乃(森話社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

沖縄研究に新しい視座 
丹念な聞き取り調査を踏まえて描く

動く墓  沖縄の都市移住者と祖先祭祀
著 者:越智 郁乃
出版社:森話社
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動く墓。なんとも目をひくタイトルだが、それはしかしどのような事態を指すのだろうか。本書によると、実際に移動するのは遺骨であって、それにはまず人の移動が先行しなければならない。なんらかの事情があって先祖代々の土地を離れざるをえなくなった人たちが、移り住んだ土地に墓を建て、肉親や祖先の遺骨を移す。一言で言ってしまうとそういうことなのだが、そこには移動にまつわる人々の思いや葛藤が秘められている。

本書が解明したいのは、墓の移動が、都市部に移り住んできた人々の生き方にどのような影響を及ぼしてきたのかということにある。沖縄における墓は、たんに遺骨を納める場所ではない。それは、人々の日々の暮らしに暗に陽に影響を及ぼす存在で、非日常的な儀礼の場合にだけ思い起こされるわけではない。著者は、墓をめぐる人々の日常を丹念に記述することで、「現代沖縄の人々の生と死のリアリティ」に迫っていく。

これまでの祖先祭祀の研究には儀礼を重視する嫌いがあり、当該社会の構造や世界観を大局的に見通す趣旨のものが多かった。そこにおいて墓は、死の象徴としてとらえられ、残された者たちの生活が研究者の視野に入ることはあまりなかった。本書は、それら既存の研究とは一線を画するものだ。

生と死の連続において墓をとらえる著者の目は、むしろ生活者の側に向けられている。丹念な聞き取り調査を踏まえて描き出される生者のドラマはそれだけでも読み応え充分だが、背景にある歴史的・社会的要因の分析はさらに興味深い。欲を言えば、そのあたりをもう少し読みたいと思ったが、しかし沖縄研究に新しい視座を持ち込んだ著者の試みは高く評価されて良い。

墓にまつわる個々のドラマは、そのまま戦後沖縄の歴史に重なる。著者が注目するように、米軍基地建設にともなって墓の移動を余儀なくされたこと、さらに基地関連収入が墓の新設を促したことなどは基地の島ならではの特殊な事情といえる。都市化の影響もあって、一九五〇年代には那覇市にそれまでの沖縄にはなかった霊園型の墓地が登場し、一九八〇年代になると公営墓地や民間経営の墓地も増えていく。

墓の外見も大きく変わった。琉球石灰岩を用いたかつての墓は、戦後になってコンクリート製に変わり、八〇年代以降は本土の業者がもたらした花崗岩を利用したものが多くなった。そこに資本の欲望を見出すことはそう難しいことではない。これは評者の個人的な経験だが、一〇年ほど前に沖縄の父が他界したとき、棺桶、葬儀の会場、香典返し、墓などを売り込みに来る業者の多さに閉口したことがある。商品化され、パッケージ化された儀礼。人の「死」もまた消費社会の潮流から自由ではないことを思い知ることになった。 

墓は移住者を結びつける役割を担うこともある。沖縄本島最北端に位置する集落である奥から那覇に移住した人々が共同で管理する奥郷友会共同墓地の事例は実に興味深い。墓の機能がたんなる「死者の家」から、遠く離れた「家」や「故郷」を偲ばせる「記憶媒体」に変化しつつあると著者は主張する。何かにつけて人が集まる共同墓地は、奥出身者の集合的記憶を媒介するものとして重要な存在なのである。

沖縄では仏壇や墓を守ることが「子」から「親」そして「祖先」へ至る「回路」を通すことにつながると考えられている。著者はそう指摘するが、その背景に父系血縁イデオロギーの存在があることも見逃さない。それは琉球王府によって制度化され、近代になって庶民の間に普及した。たとえば、「娘に家督を許してはいけない」とする禁忌があるが、かつて一大論争を巻き起こした位牌継承問題の遠因はそこらへんにありそうだ。

激しく変動し続ける沖縄社会にあって、さまざまな葛藤を抱えながら人は動き、墓も動く。本書はその貴重な記録でもある。「沖縄研究や墓制・死者儀礼に関する研究に新たな枠組みを提示したい」とする著者の試みは成功したと言えそうだ。
この記事の中でご紹介した本
動く墓  沖縄の都市移住者と祖先祭祀/森話社
動く墓  沖縄の都市移住者と祖先祭祀
著 者:越智 郁乃
出版社:森話社
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