国体論 菊と星条旗 書評|白井 聡(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

脱国体論――菊の廃止と星条旗からの独立 
「新たな集団的主体性」に基づく立憲民主国家の樹立を!

国体論 菊と星条旗
著 者:白井 聡
出版社:集英社
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国体論 菊と星条旗(白井 聡)集英社
国体論 菊と星条旗
白井 聡
集英社
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光明の兆しが見え始めてきた。朝鮮半島の〈和解〉は、政治の力によって東アジア地域に〈平和〉をもたらす嚆矢となり得よう。この〈和解〉は、本書の言葉を借りれば、「自民党を筆頭に、政官財学メディアに根を張った永続敗戦レジームの管理者たち」、つまり「親米保守派の支配層」、そして日本国民の不断の努力によってもたらされた、わけではない・・・・・・。幸いなことに、近視眼的な日本の〈平和〉の萌芽は、北朝鮮からの〈飛翔体〉のごとく、天から降ってきたのである。願わくは、この光明、安倍政権が米国製の地対空誘導弾で迎撃せんことを!

もちろん、親米保守派の支配層も、金やゴルフや媚び諂いで、トランプ政権の不満や怒りを和らげる程には、この〈和解〉に影響を与えたかもしれない。しかしながら、「北朝鮮にさらなる圧力を」と連呼した安倍政権は、本書の指摘通り、「朝鮮半島有事が発生することを期待していた」のである。望むらくは、Jアラートを打ち鳴らすことなく、安倍内閣は・・・・・早期の退陣を・・・・・・

さて、本書の趣旨であるが、極めて単純かつ明快である。曰く、菊の廃止と星条旗からの独立。本書において、著者の望むものが、「新たな集団的主体性」に基づく立憲民主国家の樹立である限り、その論理的帰結は、憲法改正をも視野に入れた象徴天皇制の廃止と米国からの独立(日米安保条約及び日米地位協定等の廃止)、ということになる。そのような大それた主張は、忌憚なく言わせてもらえば、大いなる賞賛に値するものである。

本書は、先ず、「国体」を軸とした〈明治一五〇年史〉として読み解かれるだろう。そこでは、「国体の形成・発展・崩壊の二つ(戦前・戦後)のサイクルの並行性」が、明示される。そこから、「戦後の国体」として、日米安保体制に基づく対米従属体制、つまり「永続敗戦レジーム」が措定され、その一部を成すものとして、象徴天皇制が位置づけられる。そして、この「国体」が、「国民の政治的主体化」を阻害し、「日本社会の入り組んだ奇怪な逼塞状態」を生み出した、と想定されているのである。

しかも、この「戦後の国体」を可能たらしめているのは、それが不可視化・否認されるところにあり、国民主権の自発的放棄にあるという。このような天皇制を内包した対米従属体制の不可視化・否認化は、戦後日本のポスト/コロニアル状況としても読み解き得るだろう。著者曰く、「本物の奴隷」とは、「奴隷である状態をこの上なく素晴らしいものと考え、自らが奴隷であることを否認する奴隷」である。ただし、この「本物の奴隷」が、親米保守派の支配層のみを指すのか、それとも多くの日本国民を指すのかは、読者の方の判断にお任せしよう。

そもそも、本書は、近年に物議を醸しだした天皇の「お言葉」、著者曰くの「天皇による天皇制批判」から始まり、この「天皇の呼び掛け」への応答に終わる。著者は、この言葉に「戦後の国体」の崩壊過程における〈契機〉を看守するのみならず、「国民が天皇の祈りによってもたらされる安寧と幸福を集団的に感じる」ことのできる「日本という共同体の霊的中心」という役割、つまり、新たな天皇の象徴的役割を見出している。残念ながら、来るべく独立国家〈日本〉における天皇の役割について、本書では深く言及されていないものの、繰り返しになるが、その論理的帰結は、菊の廃止と星条旗からの独立である。

冒頭で述べた東アジア地域の〈平和〉の兆しにも見られるように、近代の国民国家レジームに基づく共同性自体が、もはや世界の抱える諸問題を解決するツールとしては無用の長物であり、その国家を含む地域の〈平和〉を脅かすことすらあれ、その〈平和〉を導くために機能することは稀であろう。また、国家こそが人々の共同性を成立たらしめる唯一の政治体制であろうはずもない。本書を、ひとつの〈道具箱〉と考えれば、役立つツールを見つけ出すことは容易であり、それをどのように活用するかは、まさしく読者の政治的主体性に委ねられているのである。
この記事の中でご紹介した本
国体論 菊と星条旗/集英社
国体論 菊と星条旗
著 者:白井 聡
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
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