日本文学全集の時代 ――戦後出版文化史を読む 書評|田坂 憲二(慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

日本文学全集の時代 ――戦後出版文化史を読む 書評
日本文学全集の書誌調査と出版戦略を分析

日本文学全集の時代 ――戦後出版文化史を読む
著 者:田坂 憲二
出版社:慶應義塾大学出版会
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本書は戦後の日本文学全集について、その最盛期1960年代を中心に、しのぎを削った各社の出版戦略を描き出す研究書である。筑摩書房、角川書店、新潮社、講談社、集英社、中央公論社、文藝春秋、河出書房、学習研究社、旺文社の各社から出版された日本文学全集たち、書物そのものを主役に配し、書物を愛する者すべてに向けて書かれた一冊といえる。

本書の最大の美点は、その綿密な調査である。たとえば当時の全集には、はじめは小規模の出版企画としてスタートさせ、売れ行きを見てから増巻に踏み切る例が多いという(本書57頁)。しかし、社史や図書館の目録には完結した状態が記録されているため、こうした動きは見えてこない。そこで著者は予約を募るための配布物である内容見本や、図書館では廃棄されがちな函や帯、見過ごされがちな異版などの厖大な資料を徹底的に収集し、在りし日の日本文学全集たちの群像劇をその一挙手一投足に至るまで生き生きと描き出すのである。

もう一つの特筆すべき点は、装幀、挿画を含めたビジュアル面に繊細な注意を払っていることだ。巻頭16頁にわたり日本文学全集の装幀を多数写真掲載するとともに、本文でも造本の特徴を精しく述べている。また全集の場合、初出雑誌の挿画を再掲出する場合と、新たに書き下ろしが加わる場合とがある(163頁)と知れば、文学全集全体の挿画家データベースの構想(264頁)にも興味を惹かれる。ビジュアル面への注目に関してとりわけ興味深く読んだのは、文学全集の大衆的人気を支えた映画とのタイ・アップについての記述だ。「河出書房が〈カラー版〉『世界文学全集』の第一回配本に持ってきた『戦争と平和』を、刊行年度のベストセラー第七位にまで押し上げたのは、公開中のソ連映画とうまくタイ・アップしたことによる」(215頁)としてスチル写真の利用について後発の他社が対応に迫られたことを推理しているほか、日本文学全集についても幸田文の『流れる』、川端康成の『古都』、『伊豆の踊子』の映画化に関する目配りがある(それぞれ67頁、85頁、254頁)。映画世代を読者に取り込む戦略については、前著『文学全集の黄金時代――河出書房の1960年代』(和泉書院)にも言及があり、興趣が尽きない。

丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士『文学全集を立ちあげる』(文春文庫)や『池澤夏樹、文学全集を編む』(河出書房新社)など、「文学全集なるもの」を原理的に問う試みを併せて読むことをお勧めしたいのは勿論だが、ソウ泳日『世界文学の構造』(岩波書店)の「補論1 世界文学全集の構造」とも併せて読んでみて頂きたい。世代交代をとおした若者達の政治意識の変化に即して韓国の世界文学全集ブームの虚妄を痛烈に批判する曺泳日ジョ・ヨンイルの議論は、対岸の火事と思えない。韓国における世界文学全集は1950年末から70年代末に第一次ブームを巻き起こし、2000年代半ばから第二次ブームが起こったという。奇しくも日韓の「文学全集の黄金時代」が重なりあうことを、全集のラインナップどうしを照らし合わせながら考察してみるのも面白そうだ。「文学全集」論を構想する者にとって、日本文学全集の書誌調査と出版戦略の分析に重きを置いた本書『日本文学全集の時代』は欠かすことのできない礎となるだろう。
この記事の中でご紹介した本
日本文学全集の時代  ――戦後出版文化史を読む/慶應義塾大学出版会
日本文学全集の時代 ――戦後出版文化史を読む
著 者:田坂 憲二
出版社:慶應義塾大学出版会
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