インドの代理母たち 書評|ギーター・アラヴァムダン(柘植書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

インドの代理母たち 書評
代理母ビジネスの実情 
多様な問題をはらむ生殖補助医療現場

インドの代理母たち
著 者:ギーター・アラヴァムダン
出版社:柘植書房新社
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原題は『ベビー・メーカーズ(Baby Makers)』。まさに、子どもが人工的につくられていく実情を鮮烈に描いたノンフィクションである。インドの女性ジャーナリストが追ったのは、代理母となった女性たちと子どもを望む依頼者たちとの関わりだ。

代理出産とは、不妊に悩む夫婦や病気などで子宮がない女性、同性愛のカップルなどの依頼で、妻の卵子あるいは匿名のドナーの卵子と、夫の精子あるいは匿名のドナーの精子を体外受精させ、その受精卵を代理母の子宮に移植し、妊娠、出産してもらうものである。

アメリカでは一九八〇年代にこの代理出産が可能となり、医療ビジネスとして発展していく。その一方で社会的問題となったのは、八六年に起きた「ベビーM事件」だ。これはスターン夫妻と代理母としての契約を結んだホワイトヘッド夫人が女児を出産したが、報酬を受け取らず、引き渡しも拒んで、三カ月の乳児を連れて、夫と二人の子どもとともに姿をくらましたという事件。訴訟となった末、スターン夫妻に養育権が認められた。

日本では二〇〇三年、タレントの向井亜紀さんが子宮頚がんで子宮を摘出していたため、国内で認められない代理出産をアメリカで依頼。双子の男児を得たことを公表した。日本の法律では「産んだ女性が母親」とされ、生まれた子は夫婦の実子と認められず、最高裁でも出生届の受理が棄却されたのだった。

医療費のみならず、代理母への謝礼や保険、渡航費、滞在費なども含め、一千万円以上の費用がかかるといわれる海外での代理出産。それでも海外で卵子提供や代理出産を希望する夫婦は跡をたたず、さらに費用もアメリカより安い韓国やタイなどへ渡る人たちが増えていく。そのなかで世界中のマスコミから注目を集めたのが、二〇〇八年に日本人夫妻がインドで代理出産を受けたケースだ。

四〇代の男性医師と妻が現地の不妊治療クリニックから第三者の卵子提供を受け、インド人女性と代理母契約を結んだ。ところが、子どもが誕生する前に離婚し、別れた妻は乳児の引き取りを拒否する。インドの法律では、独身男性は親権を持てないため、生まれた女児は出生証明書を得ることができない。日本人の父親も女児を養子にできなかったので、その子はパスポートを取得できず、しばらく男性の母親が現地で世話をする事態となる。最終的にはインド政府が特例で渡航許可書を発行し、女児は祖母と一緒に日本へ入国した。

そのニュースが報じられた時の衝撃は忘れがたいが、本書によれば、インドには商業的代理母を禁止する法規制がなく、一流の私立医療クリニックと高度な医療技術があり、費用も数百万円で済むことなどから、大金を稼ぎ出すビジネスの一つになっていた。その背景として、夫の年収の何十倍、何百倍もの代価を得るために子宮を貸そうとする貧しい女性たちも多くいるという。

著者はインドの代理母たちに会って、彼女たちの心情を浮き彫りにしていく。貧しさゆえに卵子や子宮を提供せざるをえない苦悩、生まれた子への愛情や自分の家族との間で生じる葛藤もある。一方、代理出産を依頼する女性たちは、子どもを産めない悲しみを抱え、社会や親族からの圧力に苦しむ姿が描かれる。

そうした女性たちの心情を知るほどに胸苦しさを感じ、怖ろしさがつのるのはなぜか。時代を経ても、女性たちは子を産み育てる性としての呪縛に捉われ、それを煽るような技術の進歩に翻弄されてしまう。多様な問題をはらむ生殖補助医療の現場。著者はこの本を書くことは「渦巻の中に入る」ようだったと振り返り、「母であること、父であること、子づくりという言い方が今日、理解しているのとはまったく違った意味になる日も遠くはない」と予見する。

さらに言えば、その渦に最も巻きこまれるのは「つくられる命」であることを忘れてはならない。生まれくる子どもは果たして幸せになれるのだろうか――と反芻することも。(鳥居千代香訳)
この記事の中でご紹介した本
インドの代理母たち/柘植書房新社
インドの代理母たち
著 者:ギーター・アラヴァムダン
出版社:柘植書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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