新宿 ゴールデン街のひとびと 書評|佐々木 美智子(七月堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月16日 / 新聞掲載日:2018年6月15日(第3243号)

混沌の街を描き出す 
心に響くエピソードの数々に魅了される

新宿 ゴールデン街のひとびと
著 者:佐々木 美智子
出版社:七月堂
このエントリーをはてなブックマークに追加
新宿ゴールデン街には元売春街、戦後の闇市など怪しげなイメージがある。歌舞伎町入口の交差点から靖国通りを右に数分歩くと左斜めに入る道。その元都電の引込線の先に極小店がひしめく。地上げで減ったが新しい店も生まれ、いま三百軒近い。

非公認売春の青線が五八年の売春防止法以降飲み屋街となり、舞台人、映画人が働く店も多い。多くは三坪ほどだから隣の客と知り合い飲み歩く、街そのものが大社交場だ。

そんなゴールデン街でも広い「ひしょう」のママ佐々木美智子。『日大全共闘 あの時代に恋した私の記録』、『新宿発、アマゾン行き』、『新宿、わたしの解放区』などの著作がある。本書は佐々木による「ひとびと」の写真集だ。掲載された顔は目鼻口のみで粗く拡大されたものも多く、それぞれに文章がつき三百人余。赤瀬川原平、桃井かおり、沢木耕太郎、鈴木清順などに秋田明大など新左翼、右翼、バーの店員、綽名だけの客も入り交じる。

一九五六年に北海道から二十二歳で上京しておでん屋台を引き、映画編集をし、写真を学ぶ。三里塚や学生運動を撮り、六八年にゴールデン街でバー「むささび」を始めた。その後、歌舞伎町「ゴールデンゲート」、スペインで暮らし、ゴールデン街の「黄金時代」。ブラジル・マナウスで「図書館ミモザ館」など、伊豆大島では「アマゾンクラブ」。新宿に戻り八十歳で「むささび」後の「ひしょう」を引き継ぎいまに至る。

本書の魅力は波瀾万丈な佐々木の交友、写真と文である。「歯に挟まってとれないんだよ。いまでもくさやの匂いがする」と困った顔の原田芳雄。かつて隣で「ふらて」という店をやっていた浅川マキには、ブラジルから戻りマキのライブを撮って「写真を送るね」と言ったら「もう目が見えないの」と言われた等々、小さなエピソードが心に響く。

足立正生、森山大道、山下洋輔などが長い文章を書き八十名あまりがコメントを寄せているが、呼び方はさまざま。おみっちゃん、ミッちゃん、お美っちゃん、美智子さん、ミッチーさん、メトラ、オミチなど。それだけ多くの人に愛され、それぞれにとっての佐々木美智子がおり、四百頁近い黒い本には街と人々の混沌が詰まっている。

「ゴールデン街」とは、集う人たちが毎晩繰り広げる酒場交友で生まれるもの、そのものと言ってもいい。登場する多くが故人だが、佐々木美智子が描く人々は本とともに生き続け、混沌の街と一つになって、僕たちを魅了する。
この記事の中でご紹介した本
新宿 ゴールデン街のひとびと/七月堂
新宿 ゴールデン街のひとびと
著 者:佐々木 美智子
出版社:七月堂
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
志賀 信夫 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 写真関連記事
写真の関連記事をもっと見る >