江戸時代の罪と罰 書評|氏家 幹人(草思社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!
▶メールマガジン登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

読書人紙面掲載 書評
2018年6月14日

禍々しい刑事罰の数々 
罰則の多彩なバリエーションと妙な厳格さ

江戸時代の罪と罰
著 者:氏家 幹人
出版社:草思社
このエントリーをはてなブックマークに追加
江戸時代の罪と罰(氏家 幹人)草思社
江戸時代の罪と罰
氏家 幹人
草思社
  • オンライン書店で買う
平成26年に国立公文書館で開催された“江戸時代の罪と罰”では将軍吉宗が制定した「公事方御定書」(1742年成立)から明治刑法(1882年施行)まで、江戸時代を中心にわが国の刑罰と牢獄の歴史を振り返るという企画。刑罰の陰惨さがある意味虐げられ特性・M特性のある日本人の好奇心を刺激したのか連日大盛況でした。

明治大学博物館の刑事部門でも西洋の拷問具として有名な鉄の処女などを始めとしたさまざまな刑法関連資料を収集・展示していることは知られていて90年代には拷問展を開催しています。もちろん西洋モノだけではなく江戸時代の捕縛具なども展示していて楽しめます。当時、取材に行った際に博物館の監修を行っていた教授自ら捕縛ポーズを取っていただいた記憶があります。

本書の成立のきっかけとなっている江戸時代の罪と罰の世界にフォーカスした展示は珍しく人権抑圧の歴史を振り返るよりも何よりも文書資料に記されている禍々しい刑事罰の数々の見世物感、戒め感が強く感じられます。

当時の刑罰の数々はヨーロッパの拷問と同じぐらい過酷な内容で刑罰を昇華させたため強烈な印象が残ります。

現代でもスリ、放火、強盗、ゆすりたかり、殺人は横行して厳しく処罰されていますが、その他の個人間のやり取りから発展した姦通罪や密通罪。いまの感覚的にはソレで殺されてしまうの? という部分も多く、ライフスタイルの変遷のためか考え方の違いとしてこの妙な厳しさや潔癖さについても興味は募ります。

ただし身分・階級によって罰則に違いがあるということでやはり一貫して論理的に厳格というわけではなく不公平な裁きも存在していたようです。情状酌量は超えた形での裁き・罰則でも相手によっては緩めてOKだったようです。大らかといえばいいのか論理的ではないといえばいいのか。その人を処罰した後始末が面倒かどうかも関係があったのでしょうか。

江戸時代の265年間は多くの小説、映像などで憧れを持って描かれていますが罪人の首を刎ねた後にさらし首や、引き回しの刑などの衆人放置プレイが軒並みついてくることで犯罪抑制の見せしめにしたこと、処罰の徹底をしなくてはいけなかった時代の暗さを感じます。もちろん罪人が登場する創作物、捕物帖の類も多くはそこまで描写しておらず、この刑罰の苛烈さがあって少しは抑制できたのか、むしろその刑罰の厳しさを認識していたのか疑問です。

ノコギリびきというノコギリを肩口に入れて誰でも引いてイイ状態にして放置の刑や、磔にされて槍で何十回と突かれて最後に喉元に止めを刺される磔刑など、ショーとして切腹をおこなったり緊縛ショーで海老ゾリで吊るして蝋燭責めをしている現代のDX歌舞伎での見世物感覚とシンクロする当時の刑罰や罰則のラインナップです。

罰を受けて牢屋に入れられる方が病気に罹ったり、人の臭気などで致死する確率も高かったというのもある意味、凄惨です。あまりにも不潔、不摂生だったため未決(未だ罪が決まっていない)のに牢屋に放り込まれている最中に亡くなったというパターンも多かったとか。

当時の警吏の活躍ぶりと江戸時代の罰則の多彩なバリエーションと妙な厳格さがない交ぜになった歪なカオス都市だったことが罪と罰の世界から伺えます。理想の都市を作ろうと極端に走る姿は壮絶な罰則と遂行によって支えられたのでしょうか。刑務所のルールなどは花輪和一『刑務所の中』などでも描かれているので合わせて読んでみては。
この記事の中でご紹介した本
江戸時代の罪と罰/草思社
江戸時代の罪と罰
著 者:氏家 幹人
出版社:草思社
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年1月1日 新聞掲載(第3121号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
歴史・地理 > 日本史 > 近世史関連記事
近世史の関連記事をもっと見る >