ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動 書評|ダヴィッド・ラプジャード(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月18日 / 新聞掲載日:2016年1月8日(第3122号)

ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動 書評
「逸脱」の概念を探照灯として、ドゥールズ哲学の全体像を描く

ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動
著 者:ダヴィッド・ラプジャード
出版社:河出書房新社
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ドゥルーズの全体像を描くのは難しい。それは一方で、初期の哲学研究から『差異と反復』の時期、そしてガタリとの共同著作の時期、『シネマ』の時期を経て、晩年の内在の哲学に至るまで、思考のスタイルと内容に大きな変動があるように見えるからである。また他方で、対象となる領域も、哲学にとどまらず文学、絵画、映画、政治など多岐にわたるからである。しかし根本的な理由は、彼の思考が、つねに外を求めて根拠を無化し、逃走し続ける運動そのものだったからではないか。晩年のドゥルーズに学び、『無人島』『狂人の二つの体制』の編者として知られるラプジャードは、むしろそこにこの哲学者の思考の一貫性を見出す。すなわち、ドゥルーズ哲学を、「物質、生、思考、自然、社会の歴史を貫く、常軌を逸脱する運動の目録を作成することにかんして、比類なく厳密で、まったくもって並外れた、それでいて最も体系的でもある試み」(九頁)だと特徴づけるのである。それを論証するために著者は、『差異と反復』から『批評と臨床』に至る主要著作にもとづいて、序論と第一章で全体のテーマを提示した後、前半を哲学に、第六章以後を政治にあてて、根拠、権利、大地、知覚といった概念を分析していく。こうして本書は、ドゥルーズが一貫して使ったわけではない「逸脱」という概念を探照灯とすることによって、彼の哲学の全体像を描くことに成功している。

なかでも、本書の白眉は、第九、十章であろう。そこでは、知覚―美学によって、哲学と政治が基礎づけられる。ドゥルーズにおいては、見ているはずなのに見ていないことを見ること、聞いているはずなのに聞いていないことを聞くことが、語り出すことにつながる。また同時に、ひとは赦しえない状況を知覚することによって、それに抵抗せずにはいられないが故に政治的行動が始まるとラプジャードは言う。「ひとが行動するのは、政治的意志によってではなく、まずは、それ以外にどうしようもないからである」。したがって、ドゥルーズにとって、新たな身体を獲得することも、新たな土地、新たな空間、新たな時間を獲得することも、新たな語り方を獲得することも、新たな運動をはじめることも、すべて知覚から始まる。知覚の生成変化が、言葉と知性と行動における生成変化を呼び起こすのである。その特権的な例としてあげられるのが、ドゥルーズがフーコーらとともに参加した監獄情報グループ(GIP)の運動だった。この運動は、監獄の中の人々の声を代理=表象するのではなく、彼らを見えるものにすることで、語り出す回路を開いたのである。

確かに、今や監視と管理のなかにあって、世界はもはやイメージの総体でしかない。私たちが生きているのはスクリーン=世界であり、イメージのみが映写され続ける世界である。そこでは「大衆は、活動を行いうる統一された主体を形成することができない」(三〇二頁)。しかし、知覚の回路を開くことによって、まず私たち各人の力能が呼び起こされる。それは「単なる知的なだけの意識の力でも、社会的な意識の力でもなく、生命的な深い直観の力」(『シネマ2』)である。さらに社会が立ち上がる。「自我を立ち上がらせ、揺さぶる群れの力能の実現である」(『千のプラトー』)。こうして、ラプジャードは、「あらゆる政治が美学によって始まる」(三一六頁)と結論するのである。

しかし、赦しえないことを見えるようにすることによって、いわば「自動的に」政治が立ち上がるのだろうか。この解釈は、いかに「蜂起」が不可能ではないかを説明してくれるが、どうすれば「蜂起」が可能かを理解させてくれないのではないか。例えばランシエールも感性的なもの=美学と政治の連動性を主張するが、そこでは主体の役割が強調される。両者の差異はどこから生じるのか。こうした問いへの答えは、われわれ自身がドゥルーズのテクストを読み返すことによって引き出すしかないだろう。(堀千晶訳)
この記事の中でご紹介した本
ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動/河出書房新社
ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動
著 者:ダヴィッド・ラプジャード
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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