Q&A 朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任 書評|金富子(御茶の水書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月18日 / 新聞掲載日:2016年1月8日(第3122号)

Q&A 朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任 書評
時代と政治状況に応える 
戦後70年の民主主義そのものを捉え直す

Q&A 朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任
編集者:金富子、板垣 竜太
編 集:日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会
出版社:御茶の水書房
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本書は、1990年代以降、日本の戦後民主主義の脆弱性を露わにした〈日本軍「慰安婦」問題〉の解決に向けた運動と研究の成果を広く社会に発信するために、2013年8月に開設されたwebサイト、FightforJustice(http://fightforjustice.info/)をさらに発展させ、最新の知見と時代分析を加えたブックレットシリーズの第三巻である。

第一巻『「慰安婦」・強制・性奴隷』(2014年10月)は、「日本軍「慰安婦」問題の解決をめざし、日本軍「慰安婦」制度に関する歴史的な事実関係と責任の所在を、資料や証言など明確な出典・根拠をもって、提供すること」を目的としたwebサイトの内容に加え、2014年8月の吉田証言検証記事を契機にさらに激しさを増した『朝日新聞』へのバッシングの異常さや、安倍晋三首相や橋下徹元大阪市長が繰り返す「狭義の強制連行はなかった」発言がいかに根拠のないものであるかを読者に丁寧に説明する、「慰安婦」問題を考えるさいの基本書である。

第二巻『性奴隷とは何か』(2015年4月)では、やはり『朝日新聞』バッシングの深刻さに呼応して開催された公開シンポジウムの内容が収められ、主に「慰安婦」=性奴隷という国際社会の認識がもつ意義をめぐって多角的に議論される。さらに、「慰安婦は公娼である、公娼であれば性奴隷でない」という根強い女性差別的な主張を反駁する歴史的知見を提示するなど、「慰安婦」という存在の本質を描き出す構成となっている。

このように、「慰安婦」問題に対する歪んだ認識を流布し、助長する安倍晋三ら政治家の動きに抗してきた研究者、活動家たちが執筆する本シリーズだが、第三巻もまた、現在の日本社会、いや戦後70年の民主主義そのものを捉え直そうとする問題意識が貫かれているといってよいだろう。

本書は、そのタイトルが示すように、政治的なイシューとして前景化された朝鮮人「慰安婦」問題をめぐる疑問について、この問題に対する視座、歴史的文脈、そして問題解決に向けて何が必要なのかを紐解いていく。

基礎認識を提供してくれる第一巻と二巻とあえて比較すれば、第三巻は、近年なぜここまで、とりわけ韓国の主張との対立が深刻になったのか、さらにはいつの間にか、問題が複雑化しているように見えるのはなぜかといった喫緊の課題に対して、「植民地支配責任」という、比較的新しい概念を使用しながらアプローチしたものといえる[永原陽子編『「植民地責任」論』(青木書店)]。

さらにいえば、1朝鮮人「慰安婦」編、2歴史的背景編、3植民地解放後編と三部に分けつつ、24の疑問に応える各小論の多くが明示的に朴裕河『帝国の慰安婦』(朝日新聞出版、2014年)に言及している――コラムを入れると、8つの小論が朴裕河の議論を批判し、他の小論についても、たとえばQ17の「日韓請求権・経済協力協定で「解決済み」?」などは暗示的に、朴裕河の主張への反論となっている――ことに着目すれば、あたかも被害者である「慰安婦」とされた女性たちの記憶の多様性に「初めて」焦点を当てたかのように賞賛される朴の議論に対し、植民地支配後の日韓の攻防、そして、やはり多くの誹謗中傷を投げつけられてきた挺身隊協議会の運動に立ち戻りつつ、一つひとつ根拠を挙げて反論する構成にもなっている。

第三巻の一つひとつの応答がわたしたちに投げかけるのは、これまで戦後責任論として論じられがちであった「慰安婦」問題とは、戦後の日本社会が目を閉ざし、そして日本政府も戦後一貫して頑なに拒絶してきた「植民地責任」の視点である。
「慰安婦」問題について基本的な知識をもっていると自負する方には、まず、本書の最後の問い、Q24「安倍談話は何が問題?」から読むことをお勧めしたい。2015年8月14日に発表された安倍談話は、右派・保守といった、偏りながらもそれなりに多様な意見をつまみ食いした玉虫色と評されることが多いが、本書でははっきりと日本の歴史修正主義の中心に位置づけられ、日露戦争について「多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」という安倍の発言の意味が明らかにされる。安倍談話から、日本の植民地責任について振り返るとき、「歴史の天使とともに20世紀の暴力と向き合うこと」が(170)、日本における民主主義に本来の基盤を築くことだと気づかされるに違いない。そして、いまだその基盤が築かれていない、ということも。
この記事の中でご紹介した本
Q&A 朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任/御茶の水書房
Q&A 朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任
編集者:金富子、板垣 竜太
編 集:日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会
出版社:御茶の水書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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