ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯 書評|イルメ・シャーバー(祥伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月21日 / 新聞掲載日:2016年1月8日(第3122号)

ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯 書評
「ゲルタ」から「ゲルダ」へ
一人の女性として生き切った詳細な軌跡

ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯
著 者:イルメ・シャーバー
出版社:祥伝社
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「ゲルダ・タロー」という名前は、あの「ロバート・キャパ」とともにあった。いや、ロバート・キャパの傘の下にあったというべきである。そして、その傘の下からゲルダ・タロー(1910~1937)という一人の女性写真家を救い出したのが、本書『ゲルダ』である。

著者のイルメ・シャーバーは、ワイマール共和国時代の芸術と写真、国家社会主義の歴史、移民とジェンダー研究などをテーマに研究をしてきたドイツの歴史家であり、ニューヨークの国際写真センターでの「ゲルダ・タロー」展のゲスト・キュレーターをつとめている。シャーバーは、「のちに世界的名声をえた男性と共にいたこと、若くて美しかったこと、そして悲劇的な死を迎えた」という三つのジェンダー的な典型的状況が、ゲルダを一人の総体的な存在として見る視点を見失わせたと述べている。

確かに私自身、ゲルダ・タローという女性写真家がいたことを知ったのは、ロバート・キャパの『ちょっとピンぼけ』(1947年初版、1956年日本語版)である。ヒューマンな戦争写真家の恋と冒険にみちた波乱万丈の生涯は、高校生の写真少年にとってあこがれ以上のものであった。そのなかでファシストたちと戦う人民戦線の側にたって、最愛の女性ともに取材をしている中で彼女を前線での事故で失ったキャパの悲しみは、永遠の愛の物語でもあった。本書のサブタイトルにあるような「キャパが愛した」という接頭語とともに、ゲルダの存在はあり続けた。

しかしゲルダ・タローのことが日本に紹介されたのは、『ちょっとピンぼけ』が最初ではない。死の翌年、写真雑誌『フォトタイムス』(フォトタイムス社)の1938年10月号に3ページにわたって取り上げられている。この記事を書いたのは当時、新進の写真評論家として健筆をふるっていた田中雅夫。そのニュースソースは、取り上げられている写真からも『ライフ』(1937年8月16日号)であることは明白である。ただこの記事は「女流写真家列伝」の第1回目として書かれていることを見落としてはならない。当時マーガレット・バークホワイトやヘッダ・ワルター等の女性写真家が世界的に活躍を始めて注目されていたという背景があるからだ。田中の記事には、出身を「ポルトガル」としたり、キャパを「ケーパ」と表記したり、今となっては微笑ましい誤解もあるのだが、「職業のために殉じた最初の女流写真家」であり「スペイン戦争の報道写真は他の男子の写真家のものに比して少しの遜色も認められない」という記述に現れているように、あくまでも一人の優れた女性写真家として展望しようとしているといえよう。

本書はドイツ、シュツットガルトのユダヤ人の家庭に生まれたゲルタ・ポホリレという美しく活発で好奇心にみちた一人の女性が、1920~30年代のヨーロッパの中でいかに生きていったかを活き活きと描いた物語である。そこには時代の中で、写真と出会い、さまざまな男や女と出会い、そして政治や社会に翻弄され、失意や挫折、希望や憧れ、文字通り人間のあらゆる領域にわたって一人の女性として生き切った詳細な軌跡が詰め込まれている。

キャパの名前で発表された「崩れ落ちる兵士」の撮影をしたのはゲルダであるのか、という興味深いエピソードも含まれているが、生地で開催された世界の近代的写真表現を集大成し、日本にも巡回して決定的な影響を及ぼした「映画と写真・国際展」(1929年)を見ていたという少女時代のエピソードの方が私には興味深い。この展覧会は、単に前衛的な芸術としての写真表現を問題にしただけでなく、写真がメディアとしてどのような可能性をもっているか、を示し「写真」の枠組みを根源的に変革したものである。正式に写真を勉強しなかったゲルダが、最先端の写真のあり方をスムーズに実践できたのは、この写真経験があったからではないか。「ゲルタ」を「ゲルダ」にした原動力の淵源がここにあるように思えるのだ。(高田ゆみ子訳)
この記事の中でご紹介した本
ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯/祥伝社
ゲルダ キャパが愛した女性写真家の生涯
著 者:イルメ・シャーバー
出版社:祥伝社
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