新幹線を走らせた男 国鉄総裁十河信二物語 書評|髙橋 団吉(デコ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月21日 / 新聞掲載日:2016年1月8日(第3122号)

新幹線を走らせた男 国鉄総裁十河信二物語 書評
「政治力」にスポットを当てる
十河の人生がいかに濃密であったか

新幹線を走らせた男 国鉄総裁十河信二物語
著 者:髙橋 団吉
出版社:デコ
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何年か前に香川・愛媛を旅行した際、愛媛県西条市にある四国鉄道文化館を訪れた。ここには東海道・山陽新幹線の最初の車両である〇系が展示されている。これは、愛媛出身で、国鉄総裁として東海道新幹線建設に心血を注いだ十河信二にちなんだものだ。文化館の隣りには十河信二記念館も設けられ、遺品やパネルなどによりその業績が紹介されている。そこで印象に残ったのは、晩年の十河が孫に小遣いをあげるときに「おい技術長、研究費」と言って渡していたというエピソードだ。「これで好きな本でも買いなさい」と言うところを「研究費」と称したのがしゃれている。

十河自身、生涯「研究」に余念のない人だった。秘書によれば、年を重ねるほど十河の読書欲は高まり、白内障で視力が落ちてからも、秘書に本から原稿用紙へ大きな字で写し取らせたものを読んでいたという。

この話は髙橋団吉著『新幹線を走らせた男 国鉄総裁 十河信二物語』(deco)に出てくる。著者にはこれ以前に『新幹線をつくった男 島秀雄物語』(小学館)という著書があり、そこでは国鉄技師長の島秀雄を主人公に、技術面から東海道新幹線の完成までの過程が描かれた。それに対し今回の『新幹線を走らせた男』では、新幹線を実現した十河信二の「政治力」にスポットが当てられている。

十河は一九五五年に国鉄総裁となると、国際標準軌(軌間一四三五ミリメートル)で新線を建設し、そこに航空機の速度と船舶の輸送量を兼ね備えた「地平線を飛ぶ船舶」ともいうべき列車を走らせようという構想を立てる。だが、その実現までにはさまざまな障壁を乗り越えなければならなかった。外には政治家たちとの対立、内部には労働問題を抱え、さらに大事故もあいつぐ。新幹線計画を軌道に乗せてからも、用地買収、巨額の資金不足など問題が噴出した。これらに十河は誠心誠意を尽くして対処し、世論をも徐々に味方につけていく。

資金不足の一つの解決策として世界銀行から融資を受けたことはよく知られる。世銀借款を受けた場合、その国の政府は事業を完成させる義務を負う。それだけにこの借款は新幹線計画を実現に向け強く後押しした。克明につづられた世銀との交渉の経緯は、本書の読みどころのひとつだ。

もっとも世銀融資によって資金問題が完全に解決されたわけではない。新幹線開業の前年、六三年にいたっても八〇〇億円もの建設費が不足していることが国会での予算成立後に発覚する。おかげで十河は再任の道を絶たれ、開業のテープカットをすることはかなわなかった。だが、このときには十河がやめても新幹線建設は続けられる体制ができあがっていた。

十河は一九八一年に九七歳で死去した。ほぼ一世紀にわたるその人生のうち、本書がとりあげたのは国鉄総裁時代の約一〇年にすぎない。じつは本書は当初、明治末に始まる十河の鉄道省時代、中国時代を含めた三部構成になる予定だったという。しかし結果的に総裁時代だけで七〇〇ページを超える大冊となった。この分厚さだけでも十河の人生がいかに濃密なものであったかがうかがえよう。十河が政治力を培ったその前半生についても、ぜひ単行本化が待たれるところだ。
この記事の中でご紹介した本
新幹線を走らせた男   国鉄総裁十河信二物語/デコ
新幹線を走らせた男 国鉄総裁十河信二物語
著 者:髙橋 団吉
出版社:デコ
以下のオンライン書店でご購入できます
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