現代語訳 小右記 1 三代の蔵人頭 書評|倉本 一宏(吉川弘文館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月24日 / 新聞掲載日:2016年1月15日(第3123号)

現代語訳 小右記 1 三代の蔵人頭 書評
日本古代史のフロンティア 
難解な古記録を読むための導き

現代語訳 小右記 1 三代の蔵人頭
著 者:倉本 一宏
出版社:吉川弘文館
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本書は、藤原道長と同じ時代を生き、当代随一の知識人としても知られる貴族、藤原実資の日記、『小右記』の現代語訳シリーズの首巻である。編者の倉本氏は、これまでも藤原道長の『御堂関白記』や藤原行成の『権記』の現代語訳を手がけてこられたが(いずれも講談社学術文庫)、原文で刊行されている大日本古記録本では、『御堂関白記』が三冊であるのに対し、『小右記』は目録なども含めて全十一冊という大部な史料である。本シリーズも、全十六巻が予定されている。

『小右記』の書誌や実資の経歴については本書所収の解説文に譲り、ここでは『小右記』という史料の学び方について少し紹介したい。日本古代史を学ぶ上での最も基本的な史料は、『日本書紀』以下の六国史、そして法制史令である律令格式である。いきおい、大学の日本史学科などでは、これらを通じて基礎的な史料読解の力を養うことが多い。しかし平安時代には、天皇や貴族たちの日記が登場するため、これらを読み解く力も必要になる。これが古記録であり、国家の編纂にかかる六国史や法制史料とはまた異なった、当時の人々の息遣いが聞こえる史料として、我々に多くの情報を与えてくれる。ただ、古記録が厄介なのは、六国史などに見えるような正格あるいはそれに近い漢文ではなく、和習とも言われるような、崩れた書き口となっている点である。そのため解釈も難渋するところが少なくなく、初学者にとってはおのずとハードルの高い存在であった。

研究者にとっても、必ずしも容易な史料ではない。評者も以前、黒板伸夫監修・三橋正編『小右記注釈 長元四年』(八木書店)の刊行に関わったが、読み・解釈をめぐっては相当な議論を重ねたものである。『小右記』とは、それだけ議論の余地が大量に残されている、日本古代史にとってフロンティアともいえる史料である。そこに現代語訳という鍬を入れられたことは、難解な古記録を読もうとする初学者への少なからぬ導きとなるだろう。

ところで古記録は、用語も難解であり、学び始めた当初は、辞書と首っ引きになることも多い。その点、本書には基本的な用語解説も付されており、これらを参照しながら読み進めればある程度の内容は理解できるようになっている。ただし全ての語彙を載せることは当然不可能であり、全ての言葉の意味を理解して完全に読みこなしてゆくためには、「凡例」でも紹介されているような辞書類を引くことが不可欠である。古記録で頻出する語を例に挙げれば、「ひともしごろ」(暗くなってきた時間帯)を示す「秉燭」という単語は、現在一般的に使われる語ではないだろうが、管見の限り本書では熟語のまま残されている。この他にも、本書は現代語訳としてはかなり禁欲的で、あえて訳されていない言葉・文章も多く見受けられる。その点において、読者に勉強する余地を提供してくれているとも言えるだろう。いずれにしても、本書を手に取った読者の方々には、辞書を座右に読み進め、最終的には原文にもチャレンジしていただきたいと思う。

また本書における工夫として、年の始めごとに、実資をはじめとする主要関係者の年齢が付されているが、これは実資たち現代語訳 小右記1が置かれている状況を把握する上で大変重要な情報である。また、一日ごとにその日の記事内容がゴシック体で掲出されている点も、記事内容の理解を助けてくれるだろう。ただ、頭書のような形で本文の上に入っているほうが、いっそう便利ではなかったであろうかとも思う。ともあれ、訓読文や現代語訳の作成はなかなかに骨の折れる作業である。関係者の努力に敬意を表しつつ、今後の刊行を見守りたい。
この記事の中でご紹介した本
現代語訳 小右記 1 三代の蔵人頭/吉川弘文館
現代語訳 小右記 1 三代の蔵人頭
著 者:倉本 一宏
出版社:吉川弘文館
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