北京をつくりなおす 政治空間としての天安門広場 書評|ウー・ホン(国書刊行会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月24日 / 新聞掲載日:2016年1月15日(第3123号)

北京をつくりなおす 政治空間としての天安門広場 書評
天安門の政治性は如何に作り出されたか 
様々な分析視角からその背景を検討

北京をつくりなおす 政治空間としての天安門広場
著 者:ウー・ホン
出版社:国書刊行会
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「北京を二十世紀後半に於ける最も進んだ美術の都にしたいと思ふのが僕の夢である」。かつて、小説家志賀直哉は北京を東洋のパリにすることを夢見てこのように語った。こうした感覚は志賀に限られない。むしろ北京第一のイメージが(政治から距離を置いた)「古雅」にあった時期は確かにあり、それは今も無くなったわけではない。しかし二十一世紀の現在、「美術の都」と「北京」とは必ずしも交わらず、むしろ北京は中国政治の象徴としての印象を強めてきたかに見える。そして、その要因の一端は確かに天安門広場の存在にあろう。

中国にあまり関心のない人でも、北京の天安門広場という名称は聞いたことはあろうし、少しでも関心のある人ならば、それを漠然と中国政治との関係の中に感じているだろう。例えば日本でも話題になった二〇一五年九月の戦勝七十周年の軍事パレードも天安門広場を中心に行われたし、それを閲兵した中国の指導者達も、天安門の楼上に立っていたのである。

ではその政治性は、如何にして作り出されたのか。本書は、歴史・肖像画・建築・時間・藝術といった分析視角から、その背景に検討を加えていく。

本書の著者ウーホン(巫鴻)は北京出身の美術史研究者で、北京の中央美術学院で学んだ後、故宮博物院勤務等を経て、現在はシカゴ大学で教鞭をとっている。両親ともに知識人(研究者)であったため、文化大革命時期に一家は厳しい批判を受けた。

本書は、事実関係の記述(マクロの歴史)と、建国から文化大革命を経て、改革開放へと至る著者個人の幼少期からの自伝的な語り(ミクロの歴史)とが交互に層をなす独特の構成をとっている。著者の原体験は、中国現代政治、そしてその象徴である天安門広場とは無縁ではあり得なかったのである。著者が本書を評して「わたしの著作中でもっとも私的なもの」とする所以である。

著者は「政治的空間」を、政治イデオロギーが知的体系的に具現化し、同時に政治的な行動および表現を起動させる建築上の場所、と定義する。そして「中国史上で、またはなはだしくは世界史上で、その一挙手一投足が絶大な影響力をもった」こうした場所こそが天安門広場であるとする。

現在天安門広場と呼ばれている場所は、明清時代には皇帝の居城(紫禁城)の南門(天安門)の南側に置かれた官衙群によって作られた無名の空間であった。

二十世紀に入ると、そこでは時に外国の侵略に反対するデモが行われ、為政者が式典を挙行するなど、政治的空間としての萌芽も見られつつあった。しかし、この無名の空間の役割を明確に認識し、大胆に手を加えたのは、一九四九年に成立した中華人民共和国だった。

人民共和国は天安門の南に残っていた門・建物を撤去して空間を広げ人民英雄紀念碑を建て、その周囲に人民大会堂・歴史博物館、そして毛沢東の死後には、その遺体を安置する毛主席紀念堂を配置した。こうして、天安門・人民大会堂の表象する「現代」、歴史博物館・毛主席紀念堂の表象する「過去」が、人民英雄紀念碑を取り囲む形で広場を構成する現在の天安門広場が出現したのである。

ただ、その政治性も相俟って天安門広場は二度にわたって学生運動の拠点となり、現代アートの格好の材料(時にパロディの対象)ともなってきた。言うなれば、「その一挙手一投足が絶大な影響力をもった」ことで、天安門広場の政治的意図は、ある種容易に人々に想起されるものともなっているのである。

このように本書の面白さは、単に天安門広場という政治的空間の成り立ちを追うだけではなく、この空間が政治性を帯びたが故に避けることのできなかった問題にまで踏み込んでいる点にもある。

著者は一九七七年以降、天安門広場には永久的建築構造物は追加されず、むしろ政府は広場の政治性を払拭するために、臨時に組み立てられる「柔らかいモニュメント」を用いるようになったとする。もしそうだとすれば、今やこの政治的空間を一番持て余しているのは為政者なのかもしれない。(中野美代子監訳・大谷通順訳)
この記事の中でご紹介した本
北京をつくりなおす 政治空間としての天安門広場/国書刊行会
北京をつくりなおす 政治空間としての天安門広場
著 者:ウー・ホン
出版社:国書刊行会
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