造形芸術と自然 ヴィンケルマンの世紀とシェリングのミュンヘン講演 書評|松山 壽一(法政大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月24日 / 新聞掲載日:2016年1月15日(第3123号)

造形芸術と自然 ヴィンケルマンの世紀とシェリングのミュンヘン講演 書評
近代ドイツの美学思想はどのように成立したのか? 
シェリング芸術哲学の概念史的・ポリフォニー的研究

造形芸術と自然 ヴィンケルマンの世紀とシェリングのミュンヘン講演
著 者:松山 壽一
出版社:法政大学出版局
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古典主義からロマン主義への移行期に、近代ドイツの美学思想はどのように成立したのか。本書は、レッシング、ヘルダー、ゲーテ、シュレーゲル兄弟らを中心にして、古代の彫刻作品やイタリア・ルネサンス美術の批評をめぐって展開した論争を追い、ギリシアの理想がドイツ思想にもたらした文化的革新に迫る、シェリング芸術哲学の概念史的・ポリフォニー的研究である。

長年にわたってシェリングの自然哲学を研究してきた著者は、最近ではその専門領域を広げてシェリングの芸術哲学についての研究成果を発表している。『音楽と政治』(北樹出版、二〇一〇年)や『悲劇の哲学』(萌書房、二〇一四年)では、シェリングの『哲学書簡』(一七九五/九六年)から『超越論的観念論の体系』(一八〇〇年)を経て『芸術哲学講義』(一八〇二―〇五年)にいたる思想発展をたどっているから、シェリングのミュンヘン講演『造形芸術の自然との関係について』(一八〇七年)を扱った本書は、その続編といってもよいだろう。

一八世紀から一九世紀にかけて、時代という歴史的コンテクストにおいてシェリングのミュンヘン講演の意義を解明していく本書は、第一部では、初期ロマン派の動向にも目を配りながら、古典主義に道を開いたヴィンケルマン説およびラオコーン論争の変遷を追跡していき、第二部では、シラー、シュレーゲル、モーリッツ、ゲーテの主張を取り上げて、「芸術家は自然精神を範とすべし」というシェリングの主張を、シェリングひとりのものではなく一八〇〇年という時代の思潮に棹さすものであったと解釈する。

このような解釈が可能となるのも、著者が提唱する歴史的・概念史的研究の成果にほかならず、それはたんに主要な概念の影響関係や継承、あるいは変遷をたどったものではなく、むしろその時代の「思想空間」を再現することから生まれてきた結論である。著者はこれを、ロシアの文芸批評家バフチンの対話論に倣って「ポリフォニー」(多声)としてのテクスト読解と呼んでいる。すなわち、著者の唱える「概念史的・ポリフォニー的研究法」とは、「当時の一次文献を比較照合し、テクスト間の連関、つながりを推測しながら文言解釈を試みる」ことによって、「主題とする概念に関連するオリジナルな諸テクストを研究しつつ、それらを比較照合し、当の概念の成立、変遷、発展を跡づけるもの」といえよう。

ここで注目すべきは、著者の説く概念史的・ポリフォニー的研究法には、日本の哲学研究への強いプロテストが込められている、ということである。著者によれば、日本では今でもなお「哲学研究」とは異なる「哲学者研究」が行われていて、それは、研究の対象となる哲学者のモノローグに研究者たちが一斉に同じことばを唱えるだけの「モノフォニー」(一声)であって、これでは哲学者の人物と思想を一方的に「神棚に奉る仕儀」でしかなく、結局のところは、主題となる人物がつねに主役として扱われて、他の人物はすべて脇役に回されてしまうのだという。

日本の哲学研究ではすでに伝統となっている、こうしたテクスト内在的な研究も「モノローグな哲学者研究」にすぎないのであって、それに対抗して著者は、複数の思想家による複数のテクストにおける発言を、それらが属する思想空間に配置してみせる。著者の説く「ポリフォニックな思想研究」は、このように既存の研究方法への異議申し立てとも取れるが、しかし専門の研究者向けに書かれた本書には、一般の読者をも想定してさまざまな工夫がなされている。たとえば、第一部と第二部の冒頭にはドレスデンやミュンヘンの観光案内ともいえる読み物が添えられており、各所に多彩な人物模様が織り込まれている。八〇枚を超える図版が掲載された本書は、眺めているだけでも楽しく、専門の哲学研究者にも一般の読者にも一見の価値があるものといえる。
この記事の中でご紹介した本
造形芸術と自然  ヴィンケルマンの世紀とシェリングのミュンヘン講演/法政大学出版局
造形芸術と自然 ヴィンケルマンの世紀とシェリングのミュンヘン講演
著 者:松山 壽一
出版社:法政大学出版局
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