写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く 書評|松井 文恵(生活の友社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月27日 / 新聞掲載日:2016年1月15日(第3123号)

写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く 書評
作品の魅力を存分に展開 
改めて写実絵画を見直す時代に

写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く
著 者:松井 文恵、安田 茂美
編 集:ホキ美術館
出版社:生活の友社
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視覚が捉えた一瞬を切り取るのが写真であるとすれば、写実絵画は、その視覚が捉えた一瞬を画布に塗り込める創造作業であるとも言えるのではないか。更に言えば、写真が二次元の世界であるのに対して写実絵画は三次元の世界であると言えるだろう。
本書はホキ美術館(千葉市緑区)に所蔵・展示されている写実絵画の中から名作55点を、画家との対談、取材などを通して丹念に読み解いた現代アート論である。写真以上に細密に描かれた作品を前にして私たちは画家の細密な技術力に感嘆するのであるが、写実絵画の魅力は描かれた作品の豊かな奥行きの深みであり、その深みは画家の制作にかける時間の密度でもある。本書は人物画、風景画、静物画などを西洋絵画の歴史から説き起こし、現代作家の作品の魅力を存分に展開している。

書評を書く前に私は写真では捉えることのできない微妙なディテールが表現されている原画を見たくなり、本書を携えてホキ美術館を訪ねてみた。開館5周年記念「3つの個性―表現の可能性を探る―」というテーマで、写実絵画を代表する五味文彦氏、大畑稔浩氏、島村信之氏の作品を中心とした展覧会が開催されていた。

廻廊を思わせる細長い展示室に展示された作品の前に立ち止まり、近寄り、離れたりしながら作品を観ていった。島村信之氏の《コントラポストⅠ》は本書によれば「皮下脂肪の状況も含めて肌の色や質で構成されていることから、下に描いたものが透けるように薄い絵具層を何度も重ねる描き方」であるという。また本書で紹介されている五味文彦氏の風景画《木霊の囁き》は題名が示すように精霊が潜んでいるような静謐な描き方で、幽玄の世界である。草一本一本まで細部にまで書き込まれて、五味氏によれば描いたものを潰しては塗り重ねていった作品という。大畑稔浩氏の《瀬戸内海風景―川尻港》は山の向こうに沈んでいく夕日に照らされた桟橋が波の動きに反応して生き物のように歪んでいる一瞬の風景で、写真ではこの一瞬を捉えることはできないシーンである。ホキ美術館には10月に心不全で亡くなった写実絵画の第一人者・森本草介氏の作品が常設展示されていて、代表作の《横になるポーズ》は、ベージュ系の色調で統一された裸婦像であるが、滑らかな肌と優雅な曲線で描かれえた女性像には生きている女性の美しい一瞬を画布の中に閉じ込めたような気品がある。

著者の安田茂美氏、松井文恵氏はヨーロッパなどの美術館の取材を重ねて本書に纏められたという。一九世紀に写真が登場し、絵画は印象派やピカソなどのキュビズムが主流になり、写実絵画は存在意義を失っていたことは否めないが、改めて写実絵画を見直す時代に差し掛かっているのではないかと考えさせられる労作である。
この記事の中でご紹介した本
写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く/生活の友社
写実絵画とは何か? ホキ美術館名作55選で読み解く
著 者:松井 文恵、安田 茂美
編 集:ホキ美術館
出版社:生活の友社
以下のオンライン書店でご購入できます
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