日常の最前線としての身体 社会を変える相互作用 書評|草柳 千早(世界思想社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月28日 / 新聞掲載日:2016年1月22日(第3124号)

日常から考え直す身体と相互作用の社会学の可能性を明快に宣言

日常の最前線としての身体 社会を変える相互作用
著 者:草柳 千早
出版社:世界思想社
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著者は、前著『「曖昧な生きづらさ」と社会』(世界思想社、二〇〇四年)で、何が自分にとっての違和であり問題であるかが明快に言葉になりづらい、いわば「問題経験」の・ようなものという日常的な生の次元から、私たちの「生きづらさ」について社会学は丁寧に考えていくべきという独創的な主張を展開した。そして本書では、「曖昧な生きづらさ」ではなく、いわばそうした「生きづらさ」が宿ってしまう私たちの日常的な身体と身体が実践する他者との相互作用のありように焦点を当てる。自らが生きて在る意味はどこでどのように確認できているのか。それは今・ここにおける身体であり、今・ここで展開する相互作用のなかにおいてである。その意味で私たちの身体は「日常の最前線」となるだろう。言い換えれば、私たちが社会と向きあう「最前線」は、まさに私たちの身体なのである。とすれば相互作用を基点として社会と私たちのありよう、社会を批判する私たちのありようを考えるためには、明確なクレイム申し立て、異議申し立て、社会運動としての集合的な営みという次元だけでなく、より曖昧で微細な「生きづらさ」を捉え、反省するという日常的に世の中を問い返していく営みをより精緻に捉えていく必要があるだろう。

「あるときには、人は、生活のなかで直面する問題を『社会問題』として捉え異議を申し立てていく。デモや集会、陳情、交渉など、集合的、組織的な活動に参加したり、意見を表明したりする。……しかし、そればかりではない。私たちはそれぞれが日々身を置いている状況のなかで、さまざまなかたちで、疑問や抵抗を表現し、状況に働きかける。必ずしもいわゆる『運動』や『活動』としてはっきりと画定しがたいような、日常的な場面でさまざまなことを試みている。それらは、これといって明確な形をとらないかもしれず、捉えにくいかもしれないが、なされている。実際に皆している。それは、私たちが他者と共にいるところで必ず繰り広げられている相互作用、すなわち共にいる限り与え合う相互影響、そのなかで刻々と試みられている種々の実践である。私が本書を通して考えていきたいのは、こうした実践の可能性である」(二―三頁)。

こうした問題関心のもとで、著者は、ゴフマンの相互作用秩序論、ミシェル・ド・セルトーの日常的実践などを手がかりに「見られること、見ることの力」「今ここの身体、相互作用秩序とその攪乱」「日常生活の自明性と無反省のメカニズム」「最前線としての日――セルトーとゴフマンの日常的実践をめぐって」「からだの声をきく」「私たちの間を架橋するもの――若者と大人の簡単で安全で優しい関係」「ゴフマン相互作用論の地平」「身体・社会・海・太陽――身体について語ることをめぐって」と各章の内容が著者独特の語りくちで丁寧にそして緻密に論じられていく。

私が特に面白かったのは、著者のゴフマンをめぐる新たな解釈だ。『アサイラム』が精神病院等の全制的施設内秩序を解明し、そこでの個別の問題性を指摘したモノグラフとしてだけでなく、より一般的な相互作用次元の議論がされているという指摘とその内容の展開がとても興味深い。ただ著者が主張されるように、ゴフマンの相互作用論にどれだけ「社会を変える相互作用」を考え、それを実践する可能性や契機が満ちているかは、少し疑問を感じながら読んでいた。ただ優れたゴフマン論であることは確実であり、本書は新たな、もう一つのゴフマン論として読める。社会を生き、社会を変えていきたいと私たちは考えている。そうした変革が始まる「最前線」は、私たちの身体であり相互作用なのである。だからこそ、社会学は、相互作用に注目し、私たちの身体と向き合わざるを得ない。日常から考え直す身体と相互作用の社会学の可能性が本書で明快に宣言されているのである。
この記事の中でご紹介した本
日常の最前線としての身体 社会を変える相互作用/世界思想社
日常の最前線としての身体 社会を変える相互作用
著 者:草柳 千早
出版社:世界思想社
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