在本彌生写真集 わたしの獣たち 書評|在本 彌生(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月1日 / 新聞掲載日:2016年1月22日(第3124号)

◇野蛮なエロティック◇ 
在本自身の内奥に潜む獣性を炙り出す

在本彌生写真集 わたしの獣たち
著 者:在本 彌生
出版社:青幻舎
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外資系航空会社の客室乗務員としての仕事の合間をぬって、海外の様々な土地で撮影した写真をまとめ注目された前作『MAGICALTRANSITDAYS』(2006年)から約10年。フリーの写真家として活動をはじめた在本彌生が、キルギス、ベトナム、アルバニア、ラトビア、インド、ミャンマー、イタリアなど世界各地で撮影した写真をまとめた第二弾。前作の表紙に使われた、アルバニアのハイウェイに描かれたユニークな赤い人の落書きも再度撮影されていて、上書きされた様態からは時間の経過も感じとれる。

言い古されたことであるが、写真は「Shoot」という言葉にもあるように、獲物に狙いを定めて仕留める銃を連想させる。この写真集も「わたしの獣たち」と題され、在本は極めて正統的ともいえるスナップの手法で、旅先で出会った様々な対象に狙いを定める。(小林エリカの寄稿文タイトルも「狩」だ。)撮影の大半で用いられているハッセルブラッドの正方形のフォーマットは、気になる対象を真正面から捕捉し、コレクションしていくには格好のものだ。

電気メーターの上に置かれた装飾された山羊の頭骸骨(ヒオス島)、練習中の闘牛士(セビリア)、象の赤ん坊の死(神戸)、日中の光を浴びるミラーボール(ミュンヘン)、敷物にされた虎皮(サンクトぺテルグルク)。写真集は撮影場所もランダムに、生と死の境目を強く意識させる構成ではじまっている。次いで、体躯のしっかりとした二頭の農耕馬がこちらを眺める写真。最後(と表紙)にも、冥府からこちらをのぞき込むような、鬣に三つ編みが施された白馬の写真が配されており、それには「化身」を意味する示唆的なキャプション(theincarnation)が付されている。また、合間に挟まれたエッセイの一つにはキルギスでの馬とのエピソードもあり、馬はこの写真集を象徴する存在でもあるのだろう。

人の気持ちを悟り、寄り添いつつも、凜として気高い生き物。そうしたイメージをもつ馬に象徴されるような、「尊い野生に満ち溢れ、強く恐ろしく、そして覚醒するほど美しい」ものを、在本は旅人だからこそ感応できる新鮮さで、写真に撮りおさめようとする。それらは何も特別な場所だけに存在しているものではなく、日常のありふれた一瞬にも見いだしうる。リビングルームのソファーに腰掛ける女性の不意をとらえたような表情、黄色い光に照らし出された壁に写る樹々の影、エロスとタナトスを同衾させた満開の花。そうした瞬間に出会うために、旅先ではゆっくりとした間合いと歩行が重ねられている様がエッセイから浮かび上がる。

一方で、そうした写真はこれまでに幾百とない写真家が試みてきたことの一バージョンにすぎないともいえる。だが、野蛮なエロティックさを含みもったこの物語は、やはり在本でなければ紡ぎ得なかったものだ。「わたしの獣たち」は、獣のような美を秘めた対象を指すものだけでなく、在本自身の内奥に潜む獣性を炙り出そうとする試みでもあるからだ。
この記事の中でご紹介した本
在本彌生写真集 わたしの獣たち/青幻舎
在本彌生写真集 わたしの獣たち
著 者:在本 彌生
出版社:青幻舎
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