パリ、五月革命の残光 ―六八年に関する刊行物― (第二回/全四回) 西 山 雄 二|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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パリ、五月革命の残光 ―大学改革と抵抗運動―
更新日:2018年6月26日 / 新聞掲載日:2018年6月22日(第3244号)

パリ、五月革命の残光 ―六八年に関する刊行物―
(第二回/全四回) 西 山 雄 二

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パリでは大衆的な書店も含めて、多くの書店で68年5月関連の書籍展示が組まれている(写真提供:西山雄二)
ある歴史的出来事を回顧するにあたって、四〇周年から五〇周年は記憶と歴史が交錯する大きな節目である。当事者が高齢になり証言や回想録がピークに達すると同時に、後続世代による歴史的考察や資料編纂が始まるからだ。

六八年の出来事は四〇周年の二〇〇八年にもっとも盛んに議論された。新自由主義的保守ニコラ・サルコジ大統領が選挙期間中から「六八年五月の清算」を掲げ、フランスにはびこる諸悪の原因が五月の無秩序さ、無責任さにあると喧伝したからだ。だが今年、六八年を知らない若きマクロン大統領からそうした無節操な攻撃はなく、穏やかな雰囲気のなかで数々の記念行事がおこなわれている。ポンピドゥー・センターなどパリ市内八カ所が会場となって展示や討論会などが多数組まれ、官製の情報ポータルサイトさえある。

刊行物に関しては、証言集や回顧録、研究書、アンソロジー集、図録や写真集などが多数出版されている。大衆向けのクセジュ文庫として『六八年五月』が刊行されたことは象徴的である。歴史研究者リュディヴィヌ・バンティニがフランス全土の膨大な資料群を調べて、体制側の動向も含めて六八年を描き出した大著『一九六八年 有明の偉大な夕べ』が注目を集めている。ただ全体として、新たな解釈を打ち出す論争的な著作よりも、五月の代表的な論考を集めた選集が目立つ。従来の六八年論を回顧する時期なのだろう。サルトルらの論考を収めた『六八年五月を記念する?』、精神分析家アントワネット・フークなど女性らの選集『女性と娘たち 六八年五月』などである。
パリでは大衆的な書店も含めて、多くの書店で68年5月関連の書籍展示が組まれている(写真提供:西山雄二)
 五月の象徴的人物ダニエル・コーン=ベンディッドは四〇周年の際に『六八年を忘れよう』を著して物議を醸した。五月の否定ではなく、五月を発端として別の仕方で社会を構想しようというのが彼の意図であった。五〇周年の今年は何も発言しないとして、愛好するサッカーに関する著書『スパイクシューズの下に砂地が』を出した。六八年では警官隊と対峙する学生らが街路の敷石を剥がした際、露出した砂地を指して「敷石の下に砂浜が」と詩的に表現したが、その悪趣味なもじりである。

雑誌特集も数冊組まれているが、ミシェル・ヴィヴィオルカによる「ソシオ」誌(第十号)の特集「六八年五月と人文・社会科学」が読み応えがある。アラン・トゥレーヌによれば、すでにダダやシュルレアリスムの運動にその発端がみられるが、五月によって社会運動が政治的な領域から文化的な領域に移行したという。「六八年に関する主な誤解、六八年世代自身もしばしば犯してしまう誤解はその統一性という観念だ」。六八年の運動は分離や敵対を含んだネットワーク的な運動で、これは今日でも参照すべき点である。エドガー・モランは、当時「ル・モンド」紙にいち早く記事「学生コミューン」を発表したが、五月は革命ではなく、西洋の文明社会に裂け目をもたらしたと再確認する。「何も変化させないで、とくに、慣習、感情、考え方の面で多くのことが変化した」「六八年は若い学生が抱いていたきわめて奥深い渇望を具現化した。さらなる自由、自律と博愛や共同性への渇望を」。

「新マガジン・リテレール」誌三月号の特集が注目されている。アンケートの結果、「六八年五月がフランス社会にもたらした結果は肯定的か、否定的か」という問いに、実に七九%が肯定的と回答。六八年五月のイメージに対しては、「時代遅れになった社会モデルの刷新」「学生のデモ」「好条件での労働と賃金を求める運動」「文化的生活の新たな時代の幕開け」「女性が発言する自由」は七―八割、「機動隊による暴力的な抑圧」が六五%、「非行まがいの運動」は二六%にとどまった。サルコジの露骨な攻撃や躍進する極右の言説によって、ときに左派知識人によって、六八年は批判されてきた。政治的責任への市民の信頼を悪化させた、家族の重要性を低下させた、集団主義を犠牲にして個人主義を過度に促進させた、権威主義を攻撃するあまり学校制度を破壊した、と。五月の遺産がある程度精算されたかと思われたが、意外にもフランス人の大半が肯定的な見解を抱いているのだった。
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