いよいよ刊行!!待ち望まれた決定版(図書館必携書) 『類聚名義抄 観智院本』の世界(八木書店)  大槻信インタビュー〈寄稿・近藤泰弘〉|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月22日 / 新聞掲載日:2018年6月22日(第3244号)

いよいよ刊行!!待ち望まれた決定版(図書館必携書)
『類聚名義抄 観智院本』の世界(八木書店)
大槻信インタビュー〈寄稿・近藤泰弘〉

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類聚名義抄 観智院本1 仏()八木書店
類聚名義抄 観智院本1 仏

八木書店
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高精細原寸カラー版の国宝『類聚名義抄観智院本』(八木書店)全三巻の複製刊行が始まった。これまでに数度の刊行を経るが、今回は初のオールカラー、原寸大の影印で、紙の目まで見えるほどの高精細。懸案であった検索性も向上。画期的な叢書の誕生に、原本を手元に備えるかのようだ、と各所から熱い声が届いている。刊行を機に、本書の解題を担当した京都大学教授の大槻信氏に本書の貴重さ、歴史、今後の研究への期待などを語っていただいた。また青山学院大学図書館長の近藤泰弘氏にご寄稿いただいた。(編集部)
第1回
他に類のないその貴重さ

大槻 信氏
『類聚名義抄』は平安時代末期に編集された、漢字・漢語を部首により集めた音訓漢和辞典で、編者は未詳。原撰本と呼ばれるオリジナルバージョンと、それを改訂増補した改編本の二種があります。原撰本には図書寮本ずしょりょうほんが、改編本には諸本ありますが、今回高精細カラー版で複製刊行された観智院本が、その代表的な写本です。

『類聚名義抄』の成立は、原撰本が平安時代・院政期末期の一一〇〇年頃、改編本は鎌倉時代の一二〇〇年頃と推定されています。そして観智院本が書写されたのは、鎌倉時代末期。つまり、改編本が生まれてからこの観智院本が写されるまでに、それほど時を経ていません。

さらに観智院本の貴重さは、唯一の完本であるということです。図書寮本は全体の六分の一しか残っておらず、改編本系の高山寺本、蓮成院本、西念寺本、宝菩提院本なども、いずれも一部分しか残っていません。

観智院本は完本であるために、収録語数も非常に多く、図書寮本の見出語数三六〇〇強に対し、約三万二〇〇〇項目という膨大な語数を有しています。異体字や熟語も勘定に入れれば、四二三二八字。これは北海道大学の池田証寿先生が、一つ一つ数え上げられた数値によります。見出語に対する和訓(日本語読み)の数も、三四七一〇あることが分かっています。三四〇〇〇を超える古代語が収録された本など、観智院本の他にはありません。その膨大な和訓によって、当時の語彙体系を知ることができます。研究者の間で『類聚名義抄』は『名義抄』と略されますが、普通『名義抄』といえば観智院本を指すほどです。

ところでなぜ、観智院本だけが完本を残すことができたのでしょうか。これは想像でしかありませんが、平安仏教の天台宗と真言宗の二宗のうち、天台宗の比叡山は焼き討ちにあっているため、真言宗の仏典・資料の方が後世に残ったものが多いのです。また観智院は東寺の塔頭たっちゅう(高僧の塔)の一つで、ここには真言密教の経典が多く所蔵されました。『観智院本 類聚名義抄』も、東寺に大切に伝えられた写本の一つだった、ということではないかと思います。

改編本は、原撰本の写本でありながら、同じ辞書には見えないほど、内容は異なります。まず原撰本では、見出語に熟語が挙がるところを、改編本系では、多くは漢字一字が挙げられます。

『名義抄』よりも前の時代には、権威ある書は漢字で書かれるべきだと考えられていました。そうした時代に、初めて片仮名を大幅に導入した辞書が『類聚名義抄』でした。とはいえ、原撰本の和訓にはまだ、万葉仮名という漢字表記が多く含まれていました。そして、続く改編本が、和訓の全てを片仮名にした画期的な辞書だったのです。また原撰本は、仏教用語がたくさん収録された、より専門的な辞書であったのを、改編本系では仏教色を取り払い、より使い勝手よく改編します。

和訓も原撰本では、訓点資料から抜き出したままの、活用語尾の統一されないかたちでしたが、改編本では終止形に統一し、煩雑になるため出典を削り、どんなテキストを読むときにも使える、和訓集のように整えられました。

つまり原撰本の段階では、原材料のままだった見出語や和訓が、改編本では一般化され、我々がイメージする漢和辞典により近づいたのです。
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この記事の中でご紹介した本
類聚名義抄 観智院本1 仏/八木書店
類聚名義抄 観智院本1 仏
編 集:天理大学附属天理図書館
出版社:八木書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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